第56章 信頼のかたち
「涼太」
涼太は衣服の乱れを直し、立ち上がる。
その表情は彼らしくない硬さだ。
「……オレが行ってくるから。すぐタクシー乗せて帰ってくる」
「涼太、私も」
元々言い出したのは私だ。
これで涼太だけ行くなんておかしい。
「みわ、もうこんな時間だから家に居て」
「大丈夫。タクシーで行くでしょ? ついて行くよ」
「いや、外は寒いし。みわ、……始まったばかりならお腹痛いでしょ」
バレてる。
さっきから始まった生理痛に脂汗を浮かべていた。
「でも」
「……すぐ帰ってくるから、あったかくして待ってて」
涼太は私の頭の上にポンと手を置いてから、優しくキスをしてくれた。
厚手のコートを羽織り、リビングを出て行ってしまう。
「桜木町のあたり、行ってくるっス。なんかあったら連絡して」
「私も下まで行く」
「いいから。冷やさないで」
口調は優しいけど、表情は厳しい。
「……ごめんなさい、ワガママ言って。気を付けてね!」
微笑んで振り返った彼との間を裂くように玄関のドアが閉まった。
自分が言い出したくせに、涼太を代わりに行かせるなんて。
ごめんなさい、涼太。
時刻はもう、午前1時半。
携帯を握り締めて、こたつに入った。
やっぱり、行くべきだったかも。
ズキズキと下腹部が痛む。
部屋の中がなんか寒々しい。
急にスペースが空いた隣の空間に慣れない。
あんなに近くにいたのに。
……行くべき、だった……。
早く、無事に帰ってきて……。