第56章 信頼のかたち
「はぁ……」
まさか最中に生理が始まってしまうなんて。
あんな風に涼太に気付かれるなんて。
「最悪だぁ……」
思えば、裸のままトイレに駆け込んでる。
一体、どれだけ醜態を晒せばいいのか。
棚にしまってある生理用下着を取り出してナプキンを装着した。
そして、リビングに戻る前に自室に寄り部屋着を着て戻った。
リビングから涼太の声がする。
……電話?
「……Sariサン?」
訝しげにそう問う涼太の声。
この間、携帯の番号が変わっていて、連絡が取れないような事を言っていなかったか。
リビングに入って行った私を、電話をしている涼太が見つけ少しばつの悪そうな顔をした。
「なんでオレの番号……なんスかそれ、勘弁してくれよ…。……え? 悪いけど、カレシでも呼んでくれないっスか? そんな事言われても困るんで」
そう言うと画面を乱暴に触り、通話を終わらせてしまった。
「……どうしたの? Sariさん……?」
「……いやなんか、変なのに絡まれて逃げてるみたいで助けろって」
「何それ!」
「いや、酔っ払いじゃねぇスか。彼氏でも呼ぶでしょ」
「なんで涼太にかけてきたの? 彼氏さんに頼めない事情があるんじゃないの?」
変な人に絡まれているなんて、怖い。
怪我などはしていないだろうか。
「なんか恋人んちは遠いからとかそんな事言ってたっスけど。もう電車もないし、ほっときゃいいっスよ」
もし、もしSariさんが変な男に捕まって、それで無理矢理……なんてことになったら。
あんなに綺麗なひとだ。
ぶるりと身震いした。
「ねえ涼太、私迎えに行くよ」
「ハァ!? 何言ってんスか、ほっときゃいいって」
「だって、もし何かあったら!」
同じ女として、放っておけない。
涼太は私の目を見つめて、はあとため息をついた。
スマートフォンの画面を操作して、どこかに電話をかけている。
「……モシモシ。オレ、迎えに行くっスから。隠れてんの? 動かないで。どこにいるんスか。……ハイ」
素っ気なく言って、通話を終了した。