第54章 記憶

「……んん」

過去の事を思い出しながらしばしボーッとしていると、みわが寝返りを打とうとモゾモゾしているのを感じて、ハッと我に返った。

折角繋がっているのに抜けてしまうのが嫌で、逃さないように身体ごと抱きしめる。

「……ん……」

うまくフィットしたのか、動きが止まりオレの胸に頬をすり寄せた。


神崎みわ。

柔らかい頬にそっと触れると、胸が高鳴る。
ふにゃりと力の抜けた顔で眠っており、安心しきっているようだ。

彼女は、オレに何も求めてこない。

あれが欲しいとか、あれをして欲しいとかどこに行きたいとか。

欲がない！　とたまに追及してみるのだが、身体を大事にしろだのなんだのと、彼女が求めるのはいつもオレ自身のことだ。

オレが、『黄瀬涼太』である事にも期待していない。

情けないオレでも、弱ってるオレでもワガママなオレでも優しく受け止めてくれる。

いつも甘えすぎてしまうんだけど。

一緒に居るのがあまりに当たり前で、傍にいないと、ゆっくり眠る事すらまともにできなかった。

離れたくない。
離したくない。
オレが、初めて好きになったヒト。

恋って、恋愛ってどういうものか、やっぱりうまく説明はできないけど、この気持ちが愛であり恋であることはハッキリ言う事が出来る。

大切で、何よりも大切で。

身体を合わせると、感じた事のない快感と安心感、幸福感に包まれる。

オレがずっと欲しかったものを、この子が全部くれた。

「みわ……好きだよ」

艶のある髪に口付けし、愛撫するようにするりと撫でると、オレの胸に顔を深くうずめて、ぐうと鼾をかいた。

「……色気がないっスよ……」

どうにも笑いが止まらなくて、身体を震わせながらひとりでウケていると、振動が身体に伝わり結合部まで微かに揺らしたのか、軽く身じろいだ。

「……ぁ……ん」

「……こら」

色気がなかったり突然やらしい声で誘ったり、振り回されてる気がする……。

いっつも、いとも簡単に発情させられてしまう。

ああ、ちょっとしんみりしてたのにまたムラムラしてきてしまったっスわ……。