第54章 記憶
海常高校に入学してからというもの、最初はそれほど真剣に朝練などに参加はしていなかった。
退屈な日々には変わりなかったし。
その日は少し早く目が覚めたから、軽く走り込みをしてからいつもより早めの電車に乗った。
特に理由はなかったけど、なんとなく。
混んでる電車内でも、電車のドアの高さよりも身長が伸びたオレの視界は良好だ。
背が低い女の子は大変だなあと他人事ながらそう思っていると、ドア際に海常生の制服を見つけた。
周りの女性よりも少し背が高め。
珍しくサラリとした黒髪だな、なんて見ていたら、挙動の不自然さを感じた。
キョロキョロと不安げに周りを見渡したり、ギュッと力を入れて何かに耐えているような仕草。
……なんとなくピンときた。
痴漢じゃないか、あれ。
同じ男として恥ずかしい。
カッとなって、人を掻き分けて彼女の元へ向かった。
まあ、女の子がみわじゃなくても同じ事をしていたと思う。
自身の経験からか、女性を無理矢理男の力でをねじ伏せるようなその行為に腹が立ったというのもある。
それが全ての始まりなんて、その時のオレは思ってもいなかったんだけど。