第54章 記憶
部活も引退し、卒業までもあと少しと、あっという間に寒い時期になる。
この頃には、あんなに興味があった女という生き物が好きではなくなっていた。
エロ雑誌やAVでやってみたいと誰もが思うセックスは、気持ちいいものでも美しいものでもなかった。
ただの欲望のなすりつけ。
どんなに普段美しく振舞う女でも、下着を1枚脱げば下品でみっともなく喘ぐ。
いやらしく腰を振り、糸を引いた下の口で男を喰らっていく。
女性が怪物のように見えていた。
ある時、クラスでエロ漫画を借りた。
貸し借りというよりは、大体、誰かが持ってきたものを回して読むといった感じだ。
その時の漫画は、いつもの終始セックスシーンばかりの漫画ではなく、ウブな夫婦が歩み寄りながら少しずつステップアップしていくという物語だった。
また幻想の世界かと特に興味もなくパラパラとめくっていたが、セックスシーンで思わず手を止めた。
作中で行われるセックスは、オレの知らない行為だった。
愛を囁きながらキスをする。
ゆっくりと愛撫をして濡らす。
手を握って安心させる。
反応を見ながら体位を変えて挿入する。
一所懸命、相手の事を想いながら。
愛を込めて。
どれもしたことがない。
これは、一体なんなんだ。
オレがしていたのは、一体なんなんだ。
何が本当なんだ。
その行為のすべての根底には『愛情』があった。
漫画の中のふたりはとても幸せそうだった。
オレは、今まで何回セックスをしても、一度も幸せなど感じたことがない。
満たされるセックスをしてみたい。
素直に、こういうセックスがしたいと思った。