第54章 記憶
Sariとは仕事の関係で接点が多くなり連絡先も交換していたが、特に普段連絡を取り合う事もなかった。
女の子は、ちょっと返事をサボるとギャアギャアと騒ぐので苦手だ。
大体メールなんて、こちらの都合も考えず一方的に送りつけておいて、それを見たのかだの返事が無いだのとよく言えるなと思っていた。
だから、この距離感が新鮮だった。
そんな時、Sariから1通のメールが届く。
オフだから遊ばないかという誘いだった。
彼女とのキスで少しだけ意識していたオレはオーケーの返事をした。
いつもよりも大人っぽい色合いの服を選び、サングラスをして待ち合わせ場所に立つ。
オレは中学生には見えなかったらしく何度か逆ナンパをされたが、3人目が声を掛けてきたところで、Sariが来た。
15分遅れだった。
女たちはSariの姿を見て一目散に逃げていった。
「ごめんごめん、待った?」
「全然。今来たとこっス」
本当は30分前から待っていたのだが。
小さな顔にサングラスがよく似合う。
オレはまだモデルを始めたばかりだったけど、Sariはとにかく目立った。
「んじゃ、いこ」
彼女はオレの腕に手を回して軽快に代官山の街を歩き出した。
「好きなんだよねあたし、代官山」
「そうなんスか。オレ初めて来ました」
「まあ、なんかテキトーにフラフラしよっか」
渋谷や新宿、原宿などのゴチャゴチャした街で遊ぶことが多かったが、代官山はそれとは違うオシャレさがあった。
……と思う。
実はオレ自身はそういったことにはそれほど興味がないので、正直どうでも良かったのだが……。
でも、普段行き慣れない街に行き、皆が振り返るような女を連れて歩くのは気分が良かった。
ただの雑居ビルだと思ったら洋服屋だったりカフェになっていたりと、好きというだけあってSariは色々な店に詳しかった。
Sariはことあるごとに、「こういう所は女の子が喜ぶよ」と言っていたので、彼女がオレのことをなんとも思っていないのは分かっていた。
それでも、若干期待している自分がいるのにも気付いていた。
別れ際、薄暗い高架下で「大人のキス」をされた時、勃起した。
同年代の女の子とするキスでは感じることのできない興奮だった。