第54章 記憶
帝光時代、皆の歯車が狂い始めた頃。
中2だったか…3年になっていたか。
特に衝撃的な出来事でもなかったのでハッキリとは覚えていない。
オレは、姉ちゃんが勝手に応募したのをきっかけにモデルの仕事も始めた。
何もかも、退屈だった。
青峰っちに憧れてバスケを始めた頃のワクワクは、どこかに行ってしまっていた。
……そんな時、Sariとの仕事があった。
「初めまして。まだ中学生なんだよね? 分からない事があったらなんでも聞いて!」
ひとりで撮る仕事ばかりだったオレが、初めて他のモデルと撮る仕事だった。
彼女はオレより年上。
当時は大学生。
モデルの美しさは、同級生の比じゃない。
当たり前だ。売り物なのだから。
更に、中坊の自分にとっては大学生というのは物凄く大人に感じた。
他のモデルと撮る仕事というのは、とにかく待ち時間が長い。
ひとりひとり撮るショットもある。
メイクも、衣装も変える。
特に、それが女性となると、かかる時間は男の比じゃない。
「ごめんね。リョウタ君。ちょっと待ってて〜!」
面倒臭いな、感想はそれだけだった。
仕事にも彼女にも、興味はなかった。
それでも撮影自体は、先輩である彼女にリードされ、いつもよりもスムーズに進んだ。
彼女が動くと女性特有の良い香りがして、ほんの少しだけ胸が躍ったのを覚えてる。
だから、仕事後 更衣室に来た彼女にキスをされた時も、抵抗はしなかった。
そっと唇だけが重なったキス。
他の同級生よりも大人になった気がして、美しいモデルとのキスに優越感を感じていたのも事実。
「ごめんね。リョウタ君が可愛いから」
それだけ言って彼女は去っていった。
ファーストキスではなかったが、その行為は、性に興味津々の中学生の欲を起こすには十分だった。
エロ本も持っていた。
男兄弟がいる友人宅でAVも観た。
興味がない訳がない。
暫くして、また彼女との仕事が入る。
以前撮った特集の評判が良く、写真は小さいながらも短期連載コーナーとして毎月掲載される事になったのだ。
定期的に、彼女に会える事になった。
その日の仕事後、彼女はまたオレの更衣室に訪れる。
彼女はこれから沢山一緒に仕事が出来る事を喜び、またキスを残して去った。
今度は、舌を絡めた「大人のキス」だった。