第53章 初詣
洗面所に入り、洗面台を開けて奥の方を探って、ピンク色をしたジャータイプの容器を取り出す。
普段使う物の後ろに隠してあるマッサージクリーム。
あきがオススメしてくれて、使った後には肌がしっとりするから気に入っている。
……別に隠すようなものじゃないけどなんとなく恥ずかしくて、見えない所に隠しちゃう。
そもそも洗面台の右側は私の場所と決められているから、涼太は見てないと思うけど……。
髪や身体、顔などを洗って、湯船で身体を温めてからマッサージをする。
……太い。
Sariさんを見てしまったからか、自分の手足が大根に見えてくる。
でもでも、涼太はこのままがいいって!
言って……くれたもん……。
太腿をさすって、思わずため息をついた。
……それはただ涼太に甘えてる気がする。
今まで女性らしい事に無頓着でいたのは自分の責任だし、常に最前線でモデルとして活躍しているSariさんと違うのは当たり前。
当たり前なのに、なんでこんなに悔しいの。
惨めな気持ちになるの。
……やめよう。
卑屈なのが一番醜い。
嫌な気持ちを振り払うようにマッサージに集中した。
「……おまたせ、涼太」
「おかえりー」
ソファでテレビを見ていた涼太が立ち上がってこちらに向かってくる。
「涼太も入ってきて」
涼太のキレイな顔が近づいて来て、首元ですんすんと鼻を鳴らした。
「うん……イイニオイ。興奮する」
「っ!」
「いってきます」
……私は涼太の香りに興奮したんだけど……。
涼太のお風呂上りには、ハーブティーを入れた。
涼太がお仕事で貰ってきてくれた、気持ちを落ち着かせる効果があるらしいお茶。
本当は冷えたものを飲みたいところだけど、折角身体が温まったのに、また内臓から冷やしてしまっては意味がないし。
「あ、これこの間オレが貰ってきたやつ?」
「うん。凄くいい香りだね」
すうと息を吸い込むと、清涼な香りが鼻腔を通り抜ける。
「ん、意外にコレ美味いっスね」
「涼太はハーブティー好き?」
そう聞いただけなのに、涼太はあははと大きな声で笑い出した。
「……私、なんか面白いこと聞いた?」