第53章 初詣
みわと一緒に公衆電話ボックスに入ると、外との温度差で周りのガラスが真っ白に曇った。
外は既に土砂降りの雨だ。
雨宿りを決めていなかったら、今頃ふたりでびしょ濡れになっていただろう。
「はぁ、まさかこんなに降るとは思わなかったよ……」
「電話ボックス撤去されてなくて良かったっスね」
「ほんと。中はもう何にもないんだね。小さい頃はよく使ったのにな。……あ、タオル出すね」
みわは鞄からタオルを1枚出した。
「涼太、ちょっとだけ下向いてて」
「ん」
わしゃわしゃと、髪を拭いてくれる。
「髪濡れてたら風邪引いちゃう」
そう言うみわの髪からもポタポタと水滴が落ちて肩を濡らしている。
「みわだって濡れてるじゃねぇスか。オレはいいから先にみわ拭いてよ」
「だぁめ。選手優先なんです」
「もう1枚ある? タオル」
「あるけど……」
ひょいっと鞄からタオルを拝借。
「私は後でいいよ……わぷ」
問答無用でわさわさとタオルで髪を包むと、みわが笑い出した。
「あはは、これなら自分で自分を拭くのと変わらないじゃない」
お互いが手を伸ばしてお互いの髪を拭いている。
オレが少しだけかがんで、みわが少しだけ背伸びして。
……キスするときと同じだ。
ふと目が合って、お互いの頭を押さえたまま唇を重ねた。
曇ったガラスとタオルで外からはきっと見えない。
悪い事を隠れてしているような気分になる。
唇は少し冷えて、しっとりと濡れていた。
唇が離れてみると、いつもよりみわとの距離が僅かに近いと感じる。
「みわ、背伸びた?」
「……え……ウソ、本当?」
少し青ざめるくらいの勢いでみわは聞き返してきた。
「ん、なんとなく」
「えぇ……やだなあ……」
「嫌なんスか? 背高いの」
「小さい方が可愛いもん……Sariさんみたいにカッコいいモデルさんなら別だけど……」
そう言ってハッとした表情になる。
みわは本当に分かりやすい。
「オレはまあ、キスがし易くなるからいいんスけどね」
みわがSariの事を意識しているのはちゃんと分かっている。
俯くみわの髪を優しく拭いた。