第9章 衝撃
黄瀬くんが先輩にこってりしぼられて、結局そのまま帰る事になった。
少しずつ慣れてきた、2人で歩く帰り道。
いつもの景色……の筈だけれど、今日はなんだか目に入らない。
「も、もー……信じられない……」
「刺激的だったっスね」
「ばか……」
「みわっちだってその気だったくせにー」
笠松先輩にキスしてる所、見られて……うう、気まずいよ〜!
「もう、学校ではああいう事、絶対しないからっ!」
「そうなんスか? じゃあ、ここでしよっか?」
そう悪びれもせず言う姿まで魅力的に見えてしまうのは、なんなんだろう。
「……そうじゃ、なくて……」
でも……黄瀬くんとのキスは、好き。
もうわけわかんなくなっちゃうくらい気持ちよくて。
こころが、ほわんとするんだ。
それは今まで生きてきて、感じたことのない感覚。
すごく、好き。
あんまり自覚してなかったけど、私、黄瀬くんのこと好き、なの……?
好き、って気持ちが分からない。
この、絶えずドキドキする気持ちがそうなんだろうか?
一緒に居たいと、そう思ってしまうこの気持ちが?
でも、黄瀬くんは多分私に恋してるとかそういうんじゃなくて、今周りにいる女の子の中で考えるなら、まあ好きかも? っていう程度なんだよね、きっと。
だって、黄瀬くんのファンの子、キレイな子ばっかりだもの。
2人で他愛もない言い合いをしているうちに、私のアパートが見えるところまできた。
「ごめんね、いつも疲れてるのに送って貰っちゃって……」
「オレが来たくて来てるんスよ。普段、ゆっくり話せるのって昼休みくらいだし。
みわっちにはもっと頼って欲しいんスけどね……」
「頼りにしてるのに。いつも」
「そうは思えないっスけど……あ。みわっちの家の前に、誰かいる」
「ほんとだ……」
視界に入って来た人物に、息を呑んだ。
ずんぐりむっくりとした体型に、乱れた薄い頭髪。
あの後ろ姿は……あれは……
目の前にフィルターがかかったみたいに、視界がぼやけるような感覚。
頭の中で再生されるのは……
その人物は、玄関のドアの前でキョロキョロと様子を窺っている。
私が帰って来るのを待ってるんだ……!
思わず、黄瀬くんの後ろに隠れてしまった。