第53章 初詣
「……落ち着いた?」
みわの表情は晴れない。
でも、泣いているわけでもない。
あの女になにか言われたのか。
どうしたんスか、もー……。
「うん……」
「……言ってもいいと思ったら、話してくれればいいっスよ。ほら、お祖母さんのとこ行かなきゃ。時間でしょ」
オレたちは、みわのお祖母さんの家に新年の挨拶に伺う。
移動中は、気まずくなることもなく、いつも通りのふたりだったと思う。
多分。
「新年明けましておめでとうございます」
お祖母さん宅、以前朝ごはんをご馳走になった居間で3人揃ってのご挨拶。
「よく来てくれたわねえ、ふたりとも。今お茶淹れるからちょっと待ってね」
お祖母さんが立ち上がろうとすると、みわがそれを手で制止して立ち上がった。
「あ、おばあちゃん、私いれるよ!」
「あら、いいの?」
「うん! 私、記憶も戻ったんだから! もうバッチリ! なんでも任せてよ!」
パタパタと台所に向かってしまう。
「え……?」
お祖母さんの顔が曇った。
何故だ? 喜ばしいことであって、決してそんな表情になるような事では無いはずだ。
「……あの子の記憶が戻った、って本当?」
「あ、ハイ、……全部じゃないんスけど……多分これからゆっくり話すと思うっス」
「……性的な被害に遭ったこととかは……朧げになっていたりする?」
「どうして分かるんスか?」
「……」
「あの……」
「……あの子の記憶がなくなるのは、今回が初めてではないの」
「え?」
どういう意味だ?
「あの子は以前にも」
「お待たせ。そこに置いてあったお菓子も持って来ちゃった」
「あ、ああみわ、いいんだよ。皆で食べるために買っておいたんだから」
「えへへ、いただきまぁす」
みわが来てから、その話の続きが話されることはなかった。