第53章 初詣
「あけましておめでとうございます!」
午前7時。
海常高校の校門前には、いつものメンバーが集合した。
昨日降った雪は積もることなく、路面から消えていた。
学校は海沿いにあるせいか、海風が体温をどんどん奪っていく。
近所の神社でお参りをし、皆で絵馬を書いた。
3年生は受験の事、後輩が活躍する事。
1、2年生は来年度の大会の事。
新年から、皆の気持ちはひとつだった。
「あー、本当にセンパイ引退なんスねぇ……」
「なんだ黄瀬、可愛い事言ってくれるねえ。勉強の合間に様子見に行くからしっかりやれよ!」
涼太と森山先輩のこんな言い合いも、部室や体育館では聞けないんだ。
「……神崎」
「はい」
振り向くと、小堀先輩が立っていた。
「その後、体調はどう?」
「はい、お陰様で……実は、記憶、かなり戻ったんです」
私の記憶障害の事は、皆には言っていない。
でも、私達と多くの時間を過ごした3年生の先輩方には相談していた。
「そうか、それは良かった。これで受験勉強に集中できるよ」
「ご迷惑をおかけしてしまって、すみませんでした!」
「ううん、何もしてあげられなくてごめんね」
「あ、あの、先輩!」
去ろうとする先輩に声をかけ、ポケットから小袋を取り出した。
「あの、これ……学業成就のお守りです。もしかしたら、いっぱい貰ってるかもしれないんですが……」
「……ありがとう。肌身離さず持ち歩くよ。神崎の気持ちがこもってるならもう合格確実かな」
そう言って小堀先輩は優しく微笑んだ。
でも、なぜかとても寂しい笑顔に見えた。
その他の先輩方にもひとつずつ渡すと、神社を後にする。
「あああ寒い! 寒いっス〜!!」
「じゃあ肉まんでも買ってくか」
「いいっスね!」
ゾロゾロとコンビニに入っていく。
長身の彼らが揃うと圧巻だ。
若干ギョッとした店員を尻目に、中華まんコーナーに集まる皆。
「みわ、何がいいっスか?」
「ん〜…ピザまんかな」
「リョーカイっス。オレ肉まんにしよ」
「ん、いいよ俺たちが出すから。言えよ」
「笠松センパイ! 男前っス……!!」
結局3年生に奢ってもらってしまい、寒空の下、ホカホカの中華まんを皆であっという間に平らげた。