第8章 マネージャー
その日の練習後。
「ん、ここ……疲れてるね……」
ここは例の処置室だ。
笠松センパイの許可が出たので、みわっちのマッサージを、今日はオレがして貰うことになった。
上半身からほぐして貰い、足にさしかかったところで、練習のしすぎを指摘されてしまった。
「練習、軽めにした方が……」
「オレ、強くなりたいんスよ」
「でも無理はしちゃだめだよ。故障したら元も子もないよ」
「みわっちだって無理してるじゃないスか」
辛いこと、我慢してるじゃないスか。
「黄瀬くんは海常のエースなんだから。私とは違うよ」
「……」
「……嫌な言い方しちゃった。ごめんなさい」
「みわっち、嫌がらせとかされてないっスか」
「……え、どうしたの急に」
「オレのファンの子とかに」
「ん、大丈夫だよ」
「……この間、"昼休みに部室で洗濯しようとしてホースが取れて水かぶった"って午後、ジャージで授業受けてた時あったっスよね」
「……あったかな?」
「あれ、女どもに水かけられたんスよね」
「……」
「オレ、もう知ってるから」
「……あー……そんなこと、あったかな。ちょっと怒らせちゃったみたいで。でも、大したことではないよ」
「みわっちはいつも、どうしてオレには何も言ってくれないんスか」
「……」
「オレ、そんなに頼りない? センパイ達は知ってるのに……」
「違うよ、頼りないとかじゃないよ。
黄瀬くんが、誰よりも頑張ってるの分かってるから。邪魔したくないの……」
そう言いながら、みわっちの手が止まることはない。
うまくごまかそうとしているのが明らかで、オレはちょっとイライラしていた。
「そんなにオレのこと考えてくれてるなら、キスしてよ」
「……えっ?」
途端に真っ赤に染まる頬。
「オレ、悶々として練習に集中できないっス。
ねえ、オレのこと考えてくれてるなら、してよ」
「え、そ、それはまた、別の、話じゃ」
こんなの、ただの八つ当たり。
悔しかった。
いつまでたってもオレの思い通りに手に入らないみわっちにも、うまくできないオレ自身にも。
みわっちの腕を引くと、彼女はよろけてオレの胸の中にすっぽり収まってしまった。