第8章 マネージャー
あの激しい恫喝にも、淀みなくキッパリとそう言うみわっちに、オレは正直、驚いていた。
オレやバスケ部の事をそんな風に考えていてくれていたなんて……。
確かに、彼女の働きぶりを見ていれば、生半可な気持ちではないことは、一目瞭然だ。
やっぱり、嫌がらせされていたのか。
オレ、全然気づいてあげられてなかった。
今までの彼女は、すぐオレにどうにかしろって言ってきたし。
怖くないわけがないだろうに、1人で健気に立ち向かう姿を思い浮かべ、胸が痛んだ。
みわっちは一切感情的になることなく、淡々と続ける。
「だから、文句があったらこうやって直接言いに来て。コソコソ物を隠したり嫌がらせするのはやめて」
「てめー、ふざけんじゃねーぞ!」
一際大きい怒鳴り声が響いた。
直後、聞き慣れた声が届く。
「あれ、神崎? 何してるの?」
「あ……小堀……先輩……」
「誰?」
「ほら、バスケ部の……」
「やばくない?」
「行こうよ」
離れていくいくつかの足音。
今までの騒ぎが嘘のように静かになる。
「大丈夫? 体育館に忘れ物取りに来たらなんか凄い勢いの声が聞こえたから」
「あ、大丈夫です、すみませんお騒がせして……」
スイッチが切れたかのような、いつものみわっちの優しい声だ。
どれだけ気を張っていたんだろう。
「……彼女たち、黄瀬のファンだろ? 黄瀬にはちゃんと言ってる?」
「いえ、言ってません……IH前に、余計な事で気を遣わせたくないので……」
「……そう。でも、見てしまった以上、俺は笠松には報告しておくよ」
「えっ……あ……」
「それを黄瀬に言うかは笠松に任せるけど。
黄瀬の事を気遣ってくれてるのはありがたいけど、神崎だってウチの大事なメンバーだからね」
「……申し訳ありません……」
録音はそこで終わっていた。
「……あきサンは、どうしてこんな録音を?」
「いや、みわの奴が絶対来るな、あんたには言うなってきかないから、証拠だけ録りにきた。
なんかあったら、音声証拠は大きいからね」
「……とりあえずアンタは敵に回したくないタイプってことは分かったっスわ……」
……知らなかったのは、オレだけか。