第52章 大晦日の出会い
涼太はエレベーターの乗り口に背を向けて私を抱きしめている状態。
私からも、涼太からも誰が乗ってくるのかが分からない。
見えるのは、上部にある階数表示だけだ。
「ねぇ……っ、なんで……ッ」
「……ん〜……? カワイイから」
8……
9……
10……
11……
12階で、エレベーターは止まった。
ドアの開く音と、ハイヒールの音。女性だ。
「あら」
聞き覚えのある声。
ソプラノの色っぽい声。
「リョウタみっけ」
涼太はバッと驚いたように振り向く。
Sariさんがそこにはいた。
「なんでここにいるんスか……」
「先週引越してきたの。ここなら家賃、事務所が殆どもってくれるし」
「……事務所持ちのマンションなら都内にいっぱいあるじゃねぇスか」
「……フフ、言わせたいの? ……アナタがいるからでしょ、なんちゃって」
涼太の表情は見えない。
思わず彼のコートの裾をぎゅっと握った。
「……リョウタ、合鍵ちょうだい?」
なに、いってるの。
このひと。
「オレ、彼女いるんで無理です。貴女のこと、そういう風にも見れません」
「大丈夫、あたしそういう細かい事気にしないから」
エレベーターが1階に到着し、ドアが開いた。
「気が向いたら、呼んでね」
そう言って、ちゅっと涼太にキスをして颯爽と去っていった。
「!!」
ふわりと彼女の香水の匂いがエレベーター内に残った。
良い香りのはずなのに、何故か物凄く不快だ。
「クソ、油断した……」
涼太が唇をゴシゴシと擦っている。
「涼太」
「……ごめん、みわ」
涼太はこちらを振り向かず、唇を擦ったまま7階のボタンを押した。
上昇するエレベーターの中でも、エレベーターホールを抜けたところでも会話がない。
ガチャガチャと苛つくように鍵を開け、乱暴にドアを開けると、それでも優しい手で私を先に中へと誘導してくれた。
私が先に靴を脱いで上がると、涼太は玄関に立ち尽くしている。
「……涼太?」
「ごめんみわ、殴って」
「どうして?」
「……みわ以外の女とキスした」
「……わかった。 目、瞑って」
忌々しそうにそう吐き捨てる涼太の頬を両手で支えて、キスをした。