第52章 大晦日の出会い
再び電車に乗って自宅の最寄駅に着くと、駅前のカラオケ店の前に若者がたむろしていた。
……ここのカラオケ店には二度と足を踏み入れたくない。
「皆、大晦日だってのに元気だね」
「友達と年越しパーティーってやつっスかね」
「あ、そっか、年越しか」
「……みわ、あと何時間かで年変わるけど何言ってんスか」
「あ、ううんそうじゃなくて。今まで、年越しを誰かと……とか、イベントとして考えた事がなかったなあって。大体12時になる前に寝てたし……」
そっか、そういうのも特別な日になるんだね。
知らなかった。
「オレ達も今日は一緒に年越すんスよ」
涼太が少し呆れた顔でこちらを見ている。
マンションに着き、エントランスに入ると暖かい空気にほっとした。
「……うん」
「みわ? どうかしたんスか?」
なんでもなかった日が、特別な日に変わる。
「嬉しいな」
「年越しがっスか?」
「ううん……年越しを、大切な人と一緒に過ごせるのが」
ポーンという音と共にエレベーターが到着し先に乗り込んだ。
家は7階だ。
それなのに、涼太はボタンを押さない。
「……? りょう、ん」
突然、唇を塞がれた。
氷のような冷たさに一瞬息を飲んだけど、重なり合う唇同士が、すぐに熱を交換した。
「ん、んん〜!」
ちょっと、こんなところで!
「……は、っ……」
感じちゃだめ。
もうすぐおうちなんだから我慢しなさいって涼太を、止めないと……誰かに見られたら。
突然、ふっとエレベーター内の電気が消える。
「ん……? 電気消えたっスね」
「い、行き先を押さないからでしょ……!」
「あぁ、そっか」
そっけなくそう言って、ボタンは押されないままに、またキスが再開される。
「ふ……っ、あ」
なんで、なんで今こんな事になったの!?
熱い。
熱い。
全身の血液が沸騰して蒸発しそう。
「はっあ、りょ……ん」
だめ。
気持ちいい。
やめたく、ない。
気づいたら私も必死で舌を絡ませていた。
突然、エレベーター内の電気が点灯する。
それと同時に、上昇を始めた。
誰かが上の階から降りようとしているんだ。
階数表示は家がある7階を軽く過ぎて、
更に上昇していく。
快感に囚われた私は、階数表示画面を眺めるしか出来なかった。