第52章 大晦日の出会い
「あ、高尾クンか」
「そうみたいだね。仲良しだよね、あのふたり」
自分を変えてくれるひとがいるというのは素晴らしいことだ。
私も、涼太には沢山助けられた。
変えてもらった。
私にも、涼太を変えられるくらい影響力があればいいのに。
「みわ、同性同士ってどう思う?」
「え? どういう意味? ……同性同士の恋愛ってこと?」
「そう」
え、それって。
さっきのふたり、もしかして……?
そういうこと?
でも、緑間さんは凄く優しい笑顔だった。
高尾さんも、楽しそうだった。
「……個人の自由だし、いいんじゃないかな。世間的には色々……あるかもしれないけど、やっぱり好きなひとと一緒にいたいよね」
テレビでコメンテーターが言いそうなおきまりの台詞になってしまった。
でも、あまりにもあのふたりは幸せそうで。
「みわは懐が広いっスね」
「そんなことないよ」
「……」
「涼太?」
「ん、なんでもないっス」
友人として、悩む事があるのかな。
でも、どんな恋でも応援してあげたいよね。
「悩みごと? ……私じゃ力になれないかもしれないけど」
「ううん、そうじゃないんス。アリガト」
「お客様おふたり様ですか? お待たせ致しました、中へどうぞ!」
「あ、はい!」
促されて店内へ入ると、店内は沢山のお客さんで賑わっていた。
緑間さんたちは、一番奥の席で向かい合って食事をしている。
緑間さんがこちらに背を向けていて、高尾さんがこちらを向いているかたちだ。
視野の広い高尾さんが、私たちをすぐに見つけた。
ニコニコと嬉しそうにすると、緑間さんに何かを話しかけ、緑間さんがこちらを振り返って驚いた顔をしていた。
軽く会釈をしたところで、私たちは入り口近くの席を案内された。
緑間さんたちとは垂直方向の席なので、どちらも横を向けば緑間さんの背中が見える。
「高尾さんも、こういう所に詳しいのかな」
「社交的っスもんね」
一言二言、ふたりについて話しているうちに、テーブルにはすぐに天ぷら蕎麦が運ばれてくる。
大晦日は、天ぷら蕎麦のみの提供らしい。
だからこそ、こんなにも回転が速いのだろう。