第52章 大晦日の出会い
結局降りたのは、先ほど途中下車した駅のような、住宅街ばかりの駅だった。
閑散としたホームを抜け改札を出ると、駅前にはコンビニ、牛丼屋、携帯ショップ。
人通りはほぼない。
駅前にも関わらずタクシーも殆どいないのは大晦日だからか、はたまたここでは集客は見込めないとされているのか。
「……こんな駅だったんだね、意外」
「知らないとまず来ないっスよね。隠れ家的名店らしいっスよ」
涼太のポケットに入っている手だけが温かい。
寒風に曝されている鼻も耳も、凍って落ちてしまいそうなほど冷えている。
涼太に先ほどまでの様子はないけれど、ふたりの間に距離があるような気がして、意識して寄り添って歩いた。
マンションの群れを抜け、人気のない公園を横目に通り過ぎると、一軒家が建ち並ぶ住宅街の一角に行列が出来ていた。
「げ、すごいヒト」
「……このお店?」
「そそ。流石に年越し蕎麦をって考えてる人は多いみたいっスね……みわ、寒いしやめておく?」
「私は大丈夫。せっかく来たんだし、並ぼうよ! ふたりでお喋りしてたらすぐだよ、きっと」
私がそう言うと、にこりと優しく微笑んでポケットの中の手が強く握り直された。
「じゃあ、並ぼっか」
「うん!」
客側も長居はしないんだろう、列の長さの割には回転が速いようで、列の進みは思ったよりも早かった。
「このままだと、あんまり待たないで済みそうっスね」
「そうだね。……あれ?」
先ほどまでは周りをあまり見ていなくて気づかなかったけど、すこし前の方に人より頭ひとつ抜き出ている長身の男性が。
髪色は、夜道でもわかる美しい緑色だった。
「……あれ、緑間さんじゃない?」
「あ、ほんとだ。なんか喋ってるみたいだけど、相手は見えないっスね。恋人と来てんのかな」
「あんなに柔らかく笑うんだね。試合のときくらいしか会わないから……」
「……緑間っちも、変わったっスよ」
「……そっか」
帝光中学校時代の話は、実は黒子くんから聞いてしまっていた。
涼太も特にわざわざ触れては来ないし、ゆっくり、話してくれるのを待とう。
また暫くすると、緑間さんはお店の中へ誘導される。
暖簾をくぐって入る際、同じく笑顔の高尾さんの笑顔が目に入った。