第8章 マネージャー
昼休み。
男友達と昼飯食って、他愛ない話をしていたら……みわっちの仲良しさんが、オレのトコに来た。
「ねえちょっと黄瀬」
「あれ、あきサン? どうしたんスか?」
みわとはイメージが反対のキツめ美人、あきサンだ。
彼女は具体的な話をしないまま、オレを屋上まで連れ出した。
「アンタ知ってんの、これ」
ずいっと眼前に差し出されたのは……見慣れた機器。
「スマホっスね」
「殴られたいの? ちょっと再生するから聞いてなさいよ!?」
「こ、怖いんスけど……」
ザザ……音声が荒い。
「ふざっけんじゃねーぞ! 神崎!」
女の声。何かに水をかけたような音。
品性の欠片もない怒号が響く。
「てめー、黄瀬君にまとわりついてんじゃねーよ! 迷惑なのわかんねーのかよ!」
「消えろよ! 黄瀬君がオマエみたいなの好きになるわけねーだろ!」
「金魚のフンが!」
「並んで歩いてるの見るとキモいんだよ!」
一方的な発言に、吐き気がしてくる。
少し間を置いて、冷えた声が響いた。
「……じゃあ、貴女はどうなの?」
「あぁん!?」
「貴女はこうして私に水をかけて怒鳴って、何がしたいの? 黄瀬くんをどうしたいの?」
「は、はぁ!?」
「教室に戻ってこの姿の私を見たら、黄瀬くん絶対心配する。オレのせいって、気にすると思わないの?」
「黄瀬くんがオメーのことなんか気にするかよ! このブス! 鏡見てんのかよ!」
「見てるよ。知ってる。釣り合うわけないって私が一番分かってる」
「じゃーさっさと消えろよ!」
「嫌よ」
「……あ?」
「嫌、って言ったの。私が黄瀬くんと付き合ってるのは、横に並んで誰かに自慢したいわけじゃない。
確かに、こんな私じゃ黄瀬くんは恥ずかしいと思う。だから、私はもっと成長したい。邪魔、しないでもらえますか」
「お、おまえの成績を黄瀬くんが利用してるだけだからな! 調子乗ってんじゃねーぞ、分かってんのかよ! ブス!」
「うん、それも分かってる。
でも、利用価値がないよりもずっとマシ……最大限利用して貰えれば嬉しいよ、彼の役に立ちたいから。
今、大会前の大事な時期なの……海常バスケ部の邪魔になるような事、絶対にしないで欲しい」
「て、てめー言わせておけば……!」