第51章 おかえり
「お風呂、沸かそうっと」
食後のお茶が入ったカップを置き席を立ったみわが台所の給湯器のスイッチを入れた。
聞き慣れた電子音が流れる。
記憶が戻って本当に良かった。
……でも何かが引っかかる。
これで、良かった良かったと解決して良い問題なんだろうか?
年始にはみわのお祖母さんに会う。
気になる事はその時に話してみよう。
15分ほどすると、軽快な音とともに風呂が沸いた。
「みわ、オレも入っていい?」
窓際で外を見ていたみわが顔を赤くして振り向いた。
「うん……いいよ」
……記憶が戻ったばかりのこの時期はちょっとしたワガママなら聞いて貰えるかもしれない。
先日コンドームをネットで購入した時に、その他ラブグッズなるものを購入してみた。
ローションプレイがしてみたくて探していたのだが、ローション自体はみわの嫌悪感を煽ってしまうかと思い、少し違うものを買ってみたけれども……。
「入浴剤、オレが入れてもいい?」
「ん? うん、いいよ」
「じゃ、先に行ってるっスね」
そそくさと風呂場へ向かい、洗面台の奥に隠していた袋を取り出す。
ソレを浴槽のお湯の中に溶かすと、ササッと空袋を折り畳んでゴミ箱に捨てた。
別に悪い事をしているわけではないのだが、なんとなく、見られたら反対されるようなそんな気がしていて。
イタズラをした子どものような気持ちでいると、脱衣所の引き戸が開いた。
「あ、入浴剤入れてくれたんだね。なんかいい香りがする。柑橘系?」
「うん。ゆっくりはいろ」
部屋着と下着をさっさと脱ぐと後ろから小さな悲鳴が聞こえた。
振り返ると、またまた顔を真っ赤にしたみわの姿が。
「……みわ、さっきベッドであれだけ大胆に誘っておいて……」
いつ慣れるのだろうか。
いいっスけどね。いじり甲斐があるし。
「みわ、脱がないの? 脱がせてあげようか?」
「い、いいから! 先に行ってて!」
……さっさと浴室に追い出されてしまった。