第51章 おかえり
服を選ぶのにも動揺して、結局すぐ着れる厚手のパーカーを被った。
後は適当にジーンズを手に取る。
直後、背後から声が聞こえた。
「……ん」
「みわ!」
慌てて振り返ると、薄っすらと目を開けて微睡んでいる姿が見える。
良かった。目が覚めた。
駆け寄って顔を覗き込む。
「みわ、良かった……! 目が覚めないから心配してたんスよ」
「……」
「どこか身体でおかしいとこないスか? 頭が痛いとか気分が悪いとか」
額と頬に触れる。
熱はないようだ。
「……涼太」
「うん、なに? 何でもするっスよ、言って」
……ん?
いま……涼太って呼んでくれた?
今のみわになって、初めてだ。
「みわ、どうしたんスか?」
「涼太……わたし……」
様子がおかしい。
大きくまばたきを繰り返して、キョロキョロしている。
「どうしたの? ゆっくりでいいから、言ってみて」
「……私、酷い事いっぱい言って、ごめんなさい……」
瞳には涙が光っている。
「酷い事なんて言われてないっスよ? なんで泣くの、みわ」
親指で涙を拭ってやると、その手を掴まれ、愛しそうに頬に擦り寄せた。
「怖い夢でも見ちゃったっスか?」
「……涼太……」
嬉しいんスけど、一体どうしたんスか?
「……傷つけて、ごめんなさい……」
「記憶をなくした事、言ってる? 気にしてないっスよ、これからゆっくり」
「……戻った……の、かも」
「え? 何がっスか?」
……もしかして。
みわは戸惑っている。
「みわ、記憶が」
記憶が?
いやいやいや、そんなに都合よくいくわけがない。
期待するだけ後のダメージが大きくなる。
「うん……たぶん」
その言葉は現実感がなくて、耳になかなか入ってこない。
「本当に?」
「……なんか、頭が、スッキリしてて……でも、全部戻ったかどうかは分からなくて……抜けてしまってる部分もある、かもしれないけれど」
「……本当に?」
信じられない。
「……まだ確実じゃないんだけど……」
「病院行かなくて平気?」
「体調は全然悪くないよ。それより……少し、思い出話がしたいな」
「お安い御用っス。でも、体調の変化があったらすぐ言ってよ」