第8章 マネージャー
ふたりきりの帰り道。
みわっちがマネージャーになってくれてからは、帰りは部の皆でワイワイ帰っているから、なんだかすごく久しぶりだ。
「黄瀬くん……怒ってる?」
みわっちは、ふたりきりになるといつも通り、少し声が控えめになる。
部活の時は、頑張って大きな声出してるんスね。
「怒ってないっスよ」
別に、怒ってはいない。けど、面白くない。
オレに1番に相談してくれればいいのに……
「笠松センパイって……頼りになるっスよね」
「うん、本当にそうだよね。つい頼っちゃうの」
「みわっち、なんでオレに最初に言ってくんないんスかー?」
「え……ちゃ、ちゃんと出来るようになってから言わなきゃ、って……」
「オレにもやって欲しいんスけどー」
「一応、明日先輩の調子聞いてからじゃないと……逆効果になってないか心配だよ……」
みわっちに下心なんてあるわけない。
一所懸命なだけだ。それはわかってる。
センパイだってそうだ。
オレ、嫌な奴っスわ……。
「……みわっち」
「ん?」
「マネージャー、どうスか?」
「うん、楽しいよ……頑張って、早く役に立てるようになりたいなあ」
みわっちの評判はいい。
頭の良さからか、状況判断は速いし、融通もきく。
いくつものことを一緒にお願いしても、優先順位を間違えることはないし。
何より、ひたむきで素直に一所懸命頑張っている姿に、目を奪われる。
皆がつい、応援したくなってしまう。
「これからもよろしくっスよ」
「こちらこそ」
そして、表情が明るくなった。
よく笑うようになった。
クラスでも、仲の良い友達ができたみたいだし。
「オレ、みわっちの笑顔好きなんスよね」
「えっ……?」
照れるみわっち。
はにかんだようなこの表情も久しぶりだ。
彼女の部屋でキスをしたのは、いつだっただろうか。
あれから、みわっちに全く触れていない。
ふたりとも、毎日必死だったし……
「みわっち、手、繋いでもいいっスか?」
「えっ、あっ……うん……」
寒かった季節はいつの間にかすっかり息を潜め、初夏を感じさせる風の中、手を繋いで帰った。