第50章 ウィンターカップ、その後
「……眠れないんスか……?」
布団に入った私の頭を優しく撫でてくれるけど、その目は閉じかけている。
「ううん、目が覚めただけ」
連日の激戦の疲れがそんなにすぐ抜けるとも思えない。
「ごめんね黄瀬くん、寝てて」
「ん……」
髪に触れていた手がぱたりと落ち、動かなくなった。
微かな寝息が聞こえ始める。
その規則的な音を心地よく感じ、自分も気付いたら微睡んでしまっていた。
再び気がついたのは約1時間ほど経ってのこと。
最近はこんな風に眠れる事がなかったからなんだか気持ち良い。
黄瀬くんもまだ目の前で眠っている。
まるで人形のような端整な顔立ち。
目の前にある大きな手。
いつも、包んでくれる大きな、手。
彼に恋しているかと言われると、正直に言うと……分からない。
恋なんてした事がないから、恋だと認識することが出来ないんだ。
でも、こうして目の前で眠っている彼を見ていると、ギュッとしたくなったり、触れたくなってしまう。
これを、恋というの?
これは何なのだろうか。
大きな手に、自分の手を重ねた。
骨ばっていて、指が長い。
普段先輩方といる時はあんなに人懐っこいのに、他のひとへは基本冷たい。
試合になると別人のように輝く。
……ふたりきりになると、更に別人のように……なって……。
手の甲に浮き出た骨や筋、爪の先まで優しくなぞっていると、ピクリと手が動き覚醒の兆しを見せてしまう。
いけないと思い、パッと手を離すが手遅れだった。
「……みわ?」
「あ、オハヨウ……」
「……今、オレのこと触ってた……?」
「ごめんなさい、手が触れちゃって」
相手が眠っていて覚えてないからといって、誤って手がぶつかってしまったような言い方をしてしまう。
「そっスか……なんか気持ち良かったから……」
なんだかとても恥ずかしくなって目を逸らすと、その大きな手が私の右手にそっと重なった。
太くて長い指が、私の指の間を通って絡む。
彼の指の先でそっと触れた手の甲に僅かな快感が走る。
指が絡んでいるだけなのに、なんだかとてもいやらしい事をしているような気になってしまう。
「……すごい久しぶりの……みわの肌」
目が合う。
長い睫毛に護られた宝石のような瞳は健在だった。