第50章 ウィンターカップ、その後
身体を包む布団がふわふわしている。
体重を預けているマットも柔らかい。
最近ずっと寝ているおばあちゃんちの布団とは全く異なる感触なのに、なぜかとても身体に馴染む。
目を開けると、和室ではない天井。
そうだ、おばあちゃんちじゃなかった。
身体を起こすと、頭が痛む。
昨日泣きすぎたかな。
カーテンの外はようやく空が白んで来た程度で、枕元の時計を見ると、日の出までにはまだ暫く時間がある。
昨日、意識が落ちる直前に夏のIH後の事を思い出した。
その前の記憶は黄瀬家に泊まった時のものだから……2つの記憶の間には数ヶ月の期間がある。
戻るきっかけはなんだったんだろう。
でも、医師は突然戻る事もあると言っていた。
深く考えず、待つしかないのだろうか。
……待たせるしかないのだろうか。
自分でも、ここ最近は記憶について曖昧な事が増えてきた。
記憶はない、ないはずなのに、彼に触れるのに、殆ど恐怖や抵抗がない。
こんな事は初めてで、戸惑ってしまう。
その日自体の記憶はあるのに、一部分だけ記憶が抜け落ちているせいか、それが本当にあったことなのかすら怪しくなったり、違う日の記憶と混同してしまったりする。
記憶がない、わけではないの?
何かがフタのような役割をしてしまっている、とか。
……どれも想像の域を出ない。
ウィンターカップも終わった今、ようやくゆっくり自分自身のことを考えられる時間が出来た。
怪我も治って、生活する上でも不便がなくなって快適。
久々に、傷を気にせずゆっくりお風呂に入りたい。
今日から年始まで一緒に過ごす事を約束してしまったけれども、黄瀬くんは実家に帰省しなくて良いのだろうか?
……暖かい実家の皆さん。
私は、家族団欒、というものが記憶にない。
年始におばあちゃんの家に戻れば良いかな。
他の家族に会うつもりはないし。
もしかしたらヤツと鉢合わせになってしまうかもしれないし。
……今、どうしているんだろう。
ヤツを思い出して無意識に膝を抱えて座り、自然と険しい顔になってしまっているのを自分では全く自覚していなかった。
「みわ、だいじょぶ……?」
気怠げな声とともに、両膝を抱える腕にそっと触れる温かい手の温もり。
「あっ、起こしちゃった? ごめんなさい」
慌てて布団の中に入った。