第50章 ウィンターカップ、その後
11月に入り、いよいよウィンターカップへ向け練習内容もより実戦的なものになった。
みわとはふたりきりになる時間が全くなく、オレもひとりの時間は全てバスケに当てていた。
みわはその後、週に一度病院で受診しており、緩やかではあるが順調に回復しているようだ。
みわにはもう普段通りの生活をしているから心配するなと言われたけど……。
退院当初からオレには『痛みは殆どない』と言っていたが、みわの祖母からは夜になると傷が痛み、苦しんでいるという事情を聞いていた。
オレに気を遣わせない為だろう。
みわらしいといえば、みわらしい。
彼女の気遣いを無下にしたくはない。
敢えてその話題には触れないようにしていた。
そして先日、このままだと抜糸も完治も予定より早そうだと嬉しそうに報告してくれた。
そんな矢先の事だった。
「神崎! 危ない!!」
ルーズボールを拾うためにコート外へ勢い良く飛び出した選手が、部員にテーピングを施すためにしゃがんでいたみわの背中と衝突した。
「神崎! 大丈夫か!?」
「あ、大丈夫です! スミマセン、ボーッとしてて!」
仕事している人間のどこがボーッとしているのか。
しかし、快活なその返事に大多数の人間はホッとしていた。
途中だったテーピングをきちんと終わらせ、立ち上がったみわに声をかける。
「みわ、本当に大丈夫? すごい勢いでぶつかったっスけど」
「うん、ちょっとビックリしたけど大丈夫だよ!」
そう言ってその後しばらくみわは練習に参加していたが、ふとした瞬間に姿が見えなくなった。
5分間の水分補給の時間に体育館の外に出ると、水道に寄りかかり、苦悶の表情を浮かべるみわの姿。
「みわ、痛むんスか!? すぐ病院に……!」
「ん、うん、大丈夫。ちょっと今日は早めに上がらせて貰うから……」
そう言って微笑んだみわの額には脂汗が浮かんでいた。
結局彼女はその日早退し診察を受けたが、傷口は開き、またこまめな通院が必要になってしまったようだ。