第2章 痴漢
「え……っ?」
振り向いた彼に、強く首を振った。
顔が上げられなかった。
涙で顔はぐしゃぐしゃだし、助けてくれた彼に申し訳なくて。
「泣き寝入りするんスか!」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
足に力が入らない。
その場に座り込み、子どものようにボロボロ泣いてしまう。
彼の言う通りだ。
泣き寝入りしたいわけじゃない。
でも、さっきの出来事をひとに話す覚悟もできなくて。
「ごめん……なさい……」
「……怖かったスよね。大きな声出してしまって、オレこそごめん」
彼は優しい声で謝ってくれた。
悪いのは私なのに。
「ね、ここじゃ冷えるっスから、そこのイスに」
そう言って、彼の手が私の肩に触れた途端……私は身体を大きく震わせてしまう。
彼の手も、それに驚いたようにパッと離された。
「ご、ごめんなさい。大丈夫、1人で歩けます……」
助けてくれた人なのに。目が合わせられない。
「こっちこそ、怖い思いをしたばかりなのに無神経っスね。ごめんね」
「ち、違うんです! ごめんなさい。私、ちょっと、男性が苦手で……」
気を遣わせてばかりで、本当に最悪だ。
優しいひとなのは、分かるんだけれど……
男性だというだけで、怖くてたまらない。
自分が情けなくて、さらに涙が出る。
なんでこんな風になってしまうんだろう……。
落ち込んだ気持ちのまま立ち上がった途端、鈍痛と太ももを何かが伝う感覚があった。
なに……?
驚いて見ると、太ももに、一筋の、血……?
「やっ……!」
すぐにしゃがんだけど、彼に見られてしまった!?
恥ずかしい。恥ずかしい。見られた。
なんで、なんでこんな……!
「……今日はもう、このまま帰って、学校は休んだらどうっスか?」
優しい声。
優しい、優しい声。
甘えてしまいそうになる。
でも……
「いえ、今日は、絶対に行かなければならないんです。絶対に……」
今日だけは、欠席するわけにはいかなくて。