第49章 ハロウィン
あー、バカバカ。
こんなに突然席を立ったら皆の空気壊す……。
こっそり出てきたから、大丈夫だよね?
でも、見ていられなかった。
可愛い先輩に膝枕されてる黄瀬くん。
すごく絵になってた。
黄瀬くんが先輩の衣装を褒めたあたりから、私の胸の中によく分からない、覚えのない黒々とした感情が渦巻いている。
もやもやして、嫌な気分。
これは一体、なんなのだろう?
なんでこんなに、嫌な気持ちになるんだろう。
俯いていると、リビングのドアが開いたのに気付いた。
「神崎」
「小堀先輩……」
「神崎、ごめん。無神経だった。こうなる事、予想出来なかった訳じゃないのに」
「え?」
「黄瀬がああなって、嫌な思いしたろ。ごめんな」
「いえ、そんな……気にしないでください! そういうのじゃないです、すみません……」
そういうのじゃないって、じゃあどういうの?
……
嫌だ。
彼が、他の女性に触れるのが嫌だ。
なんでか分からない。けど、嫌。
とにかく、嫌だった。それだけ。
惨めな自分に嫌気がさす。
記憶がなくなる前の私なら、この気持ちの理由が分かった?
どうしたらいいのかも知ってた?
胸に何かが詰まってるみたいで苦しい。
胸の前で拳を握ってこの気持ちに耐えようとしたら、涙が勝手に出てきた。
「神崎……」
「みわ!」
先輩の背中から声がする。
その向こう側から現れたのは……
「黄瀬」
「あ、小堀センパイスンマセン。後は、……オレが話すんで」
「……悪いな、黄瀬、神崎」
小堀先輩は申し訳なさそうにそう言うと、リビングに戻って行ってしまう。
私は、顔を上げることができない。
気持ちがごちゃごちゃして、整理できていない。
「みわ」
黄瀬くんが顔を覗き込んでくる。
「みわ、顔見せて」
「……」
せっかくイズ先輩にして貰ったメイクが落ちちゃうかもしれない。
そっと目元の涙を拭った。
「みわ」
「……」
優しい声。
少し困ったような声色。
「顔上げないと無理矢理キスするっスよ」
「……」
「ねえ、みわ」
「…………て」
「え?」
「キス、して……」
「……っ!」
黄瀬くんは私の腕を掴んで、寝室のドアを開けた。