第48章 弱音
「はぁ……」
ドキドキした。
"みわっ……"
あの声が耳から離れない。
手の中で熱く大きくなっていく、彼の感触。
快感に微かに震える身体に、漏れてしまう喘ぎ声。
その声に煽られて、だんだんと大胆になっていく自分の手。
心臓が飛び出しそうなほどドキドキして、でもなんだか少しワクワクしていた。
不思議な気持ち。
知らなかった感情。
洗面所で手を洗いながら彼の顔と声を思い出し、思わず赤面する。
鏡を見ると、耳まで赤い自分の顔が。
……こんな顔じゃ戻れない。
大きく息を吸い込んで、深呼吸をする。
"あっ……みわ……"
わーわーわー!
だめ! 消えてー!
「みわ、タオル……」
「!」
洗面所に入ってきた黄瀬くんとバッチリ目が合った。
「あ、ありがとう、タオルどこ?」
少しだけ目線を外して。
そうだ、鼻の辺りを見ると、相手からは目が合っているように見えるんだっけ。
……わあ、鼻、高い……。
鼻筋がスッとして……。
いけない、いけない。
平静に、平静に。
「ここの棚に入ってるっスよ」
ほら、普通。
「わわわかった、ありがとう」
すんごく普通に振る舞えてる。
大丈夫。いつも通り。
「みわ」
わ。またあの目。
物凄い引力に、吸い込まれる。
「なななななに?」
「……カオ真っ赤」
「!!」
グッと肩を引き寄せられ、囁かれる。
大きな手が、腰の辺りをいやらしく撫でた。
「ごめんね、オレだけ。ケガ治ったら……ちゃんと気持ちよく、させてあげるから」
それだけ言って、彼は洗面所から出て行ってしまった。
「……あ……」
私は、その声で足の力が抜けてへなへなと洗面台の前に座り込んだ。