第47章 距離
あんなに色々な事があったのに、定期テストというものは予定通りくるもので。
隣の席にみわが座っているのを見て心底ホッとする。
ホームルームが終わると、1時間目から早速テストだ。
ああ、憂鬱。
隣のみわがふうと息をついた。
ちらりと様子を伺うと、完全に集中していて、声もかけられない。
あの目、好きなんスよね。
真っ直ぐで、強くて絶対に折れない。
誰にでも出来るものじゃない。
オレも、バスケ中にあの感覚になるから分かる。
……勉強も、あれくらい集中できたらいいんスけど……。
なんだかんだテストと戦い、4時間目が終わる頃には使い慣れない脳みそが悲鳴をあげていた。
テスト期間中は午前だけの時間割だ。
「やっと帰れるっス……」
バスケやってるよりも、普段使ってない所が疲れている。
帰りたい。
今すぐ昼寝したい。
「お疲れ様、黄瀬くん。夕方までお邪魔してもいい?」
「モチロン!」
その笑顔に心から癒される。
お昼寝欲は吹き飛んだ。
帰り道、校門の前では、つい手に力が入る。
犯人の女は結局釈放されたらしい。
女の父親が財界人らしく、簡単に言えば揉み消したのだ。
道理で、20歳だか30歳だかの女性が平日からウロウロしてるわけだよ。
お陰でみわがワイドショーの標的になることはないが、あれだけやられて無罪放免とは、みわが傷付き損じゃないか。
背中から切り裂いてはらわたを引きずり出してやりたい。
二度と消えない傷を負えばいい。
殺してやりたい。
「黄瀬くん? どしたの?」
声を掛けられて、ハッと現実に戻される。
「大丈夫? 行こう!」
真っ黒になっていた気持ちが、その笑顔で浄化されるようで。
「みわ」
「うん? ……っ?!」
半ば本能的に、柔らかい唇に口付けをした。
鼻先をくすぐる、甘い香りにくらくらする。
「ん……」
恥ずかしそうに応じてくれるのが堪らない。
「黄瀬! そういうのは人のいねぇとこでやりやがれ! シバくぞ!」
少し遠くから、笠松センパイの声。
顔を上げると……道行く生徒達がオレたちふたりに釘付けになっていた。
欲張ってもう少しだけみわの唇を堪能していたら、センパイの蹴りが飛んできたのは、言うまでもない。