第47章 距離
学校最寄駅に着き電車のドアが開くと、今まで詰まっていたものが一斉に酸素を求めて吐き出されるように、私たちも押されて外へ出された。
「おお……こりゃまた混んでたっスね……」
ふうと一息つき、改札を出てから黄瀬くんに声を掛ける。
「ごめんね、ありがとう」
「ごめんね、は余計っスよ」
そう言って黄瀬くんは私の手を握って歩き出した。
え、手を握って歩くの!?
するりと指が絡まって、恋人つなぎになる。
"あ、黄瀬君だ!"
"かっこいい!"
"いいな〜"
などと周りの女生徒からの黄色い声が聞こえてくる。
なんだか申し訳ない気持ちになって下を向いて歩いていると、急に顔を覗き込まれた。
「わっ、な、なに?」
「元気ないっスね、疲れちゃった?」
「う、ううん! 黄瀬くん注目浴びてるから、なんかね、恥ずかしくなって」
「良かった。怒ってるかと思ったっス」
「……何を?」
「電車で密着してるのをいい事に、みわの胸の柔らかさを堪能してたから」
「っちょ……!?」
まさかの、その発言。
む、胸!?
確かに、隙間なく敷き詰められた車内、これ以上にないくらい密着して。
「ぽよんとして気持ち良かったったなーって、アハハ、役得って事で許して」
「え、も、もう……っ」
「おう神崎、大丈夫か? まだ暫く休むかと思ってたが」
後ろからかけられたこの声は、森山先輩。
「おっ、おはようございます! ご迷惑をおかけしました……! もう大丈夫です。テスト終わったら部活にも出ます」
「無理すんなよー!」
森山先輩は走り出すと、前を歩いていた小堀先輩に声をかける。
私たちに気付いた小堀先輩が軽く手を上げてくれたので、会釈で返した。
ああ、帰ってきた。
いつもの、学校生活だ。
ホッとした気持ちになって、肩に入っていた力が抜けるのを感じた。
ギュッと手を握ると、温かい手が握り返してくれるのを感じて、胸が熱くなる。
それに対して、頬を叩く風は冷たさを増してきている。
校内では、紅葉の時期を待ち侘びた木々達が色付く準備を始めていた。