第47章 距離
いただきますの声とともに、3人がそれぞれ箸を進める。
「あ、美味い」
黄瀬くんが卵焼きを食べてそう漏らした。
キレイな箸使いに伸びた背筋。
和室で食事を取る姿がこんなに美しいなんて神様は本当に、不公平だ。
手が大きくて、指が長い。
身体も大きくて……男の人。
抱きしめられた時の胸の大きさを思い出して、急に恥ずかしくなる。
「あら、ありがとう。みわも得意よね、卵焼き」
「えっ、あ、うん!」
ふとこちらを見た黄瀬くんと目が合う。
やばい。ジロジロ見てたのバレたかな。
「みわ…みわさんの料理はお祖母さんから教わったって言ってたっスね」
「ふふ、黄瀬さん、私の前だからって遠慮せずに、みわって呼んでくれていいのよ」
「あ……スンマセン……」
「……みわ、あなたどうするの?」
「え?」
突然のおばあちゃんの問いに、咄嗟に何を言われているのか分からない。
「暫くその大切な試合が終わるまで、ばあちゃんちで暮らすの? それとも、元いたおうちに戻るのかい?」
元いた……って、黄瀬くんとの同居だよね。
記憶にない、彼との時間。
「……決めてなかった。どうしたらいいのか、分からなくて」
無理矢理にでも元通りにした方がいいのか。
でも、一番怖いのは、ウィンターカップの集中の邪魔をすることだ。
正直まだまだ不安定で、いつ一昨日のような状態になるかも分からない。
それに、朝起きて突然嘔吐する同居人に彼が何も感じないとは思わない。
「早く決めないと、黄瀬さんにも迷惑がかかるじゃない」
そうだよね……。
「あ、いえ、全然それは問題ないっス。みわが、戻りたいと思ってくれたら戻ってきてくれたらいいんス。
オレ……待ちます」
その答えに、救われた気持ちになる。
勝手だけれど、今すぐどちらかに決めればならないというのが一番の負担だった。
「ごめんねえ、黄瀬さん」
「……ご、ごめんなさい」
黄瀬くんはそれ以上何も言わずに微笑んでいた。