第47章 距離
「……おばあちゃん、ごめんね」
おばあちゃんが部屋に戻ってきた。
今日はおばあちゃんの隣の布団で寝かせてもらう。
「いいんだよ。明後日から学校なんだからもう気にせずお休み」
「……はい……お休みなさい」
なんであんなに突然……最近はあんな風にならなかったのに。
あの部屋に入ったから?
現実と幻覚の区別がつかなくなっていた。
足元から恐怖に支配される感覚。
嫌な感じがゾクゾクと背中を這い上がる……
手が震えて来た。
もう過去のことだって、分かってるのに。
忘れたいと思っているのに。どうして。
……ねえ、忘れる前の私、幸せだった?
皆、楽しそうだったって。幸せそうだったって。
戻りたい。戻りたいよ。
……考えちゃ、だめ……。
寝なきゃ、少しでも眠らないと。
でも……ああ、背中の傷が疼く。
さっき、走ったり暴れたりしてしまったみたいだし……それが原因なのかな。
痛み止めは飲んだのに。
……おばあちゃんの寝息が聞こえてきた。
寝付けなくて、スマートフォンを手に取る。
暗闇の中で煌々と光る画面に更に目が覚醒してしまう気がするけど。
ネットニュースの画面を開いても内容が全く頭に入ってこず、すぐにブラウザを閉じた。
特に何をする気も起きずに待ち受け画面を眺めていると、突然画面がメール受信を知らせる。
黄瀬くんだ。
"みわ、お疲れ様。
メールで起こしちゃったらごめん。
もしまだ起きてたら、電話してもいい?"
「!」
思わず布団から飛び起きて、背中に走る痛みに唸った。
おばあちゃんを起こさないように廊下に出たけど、なんとなくここで話すのは気が引けて、縁側から庭に出ることにする。
黄瀬くんとキスをしていた時には熱くなった頬を冷やしてくれた夜風が、身体を芯から冷やす。
ぶるっと身体をひとつ震わせて、発信ボタンを押した。
『もしもし? みわ?』
「わっ、あ、うん」
1コールも鳴らずに相手が出たので
驚いてしどろもどろになってしまった。
私からかけたのに。
『ごめんね、寝てた?』
「ううん、ちょっと寝付けないなって思ってたとこだから、大丈夫」
『テスト前なのに電話とか』
「平気だよ。何か用だった?」
『いや……声が、聞きたくてさ』
「……え」