第47章 距離
電車で2駅。
駅の間隔も広くないし、距離にしたら近い。
これからはみわを送ったら走って自宅まで帰ろうか。
そんな事を考えながら玄関に入った。
元々短い期間でもひとり暮らしをしていた筈なのに、ここにみわがいないのを不自然に感じている。
それほどに、彼女との時間は心地よく、オレに必要なものだ。
お祖母さんと楽しくやっているだろうか。
みわは家族の話を殆どしない。
両親は何故離婚したのか、母親と父親は今何をしているのか。
こうしていると、自分は騒がしいながらも仲のいい家族で、苦労はしていないなと思う。
恋人とはいえ、土足でズカズカ踏み込んでいい話題ではないだろう。
みわが話してくれるまで待とう。
暫くは、お祖母さんの家で過ごした方がきっと安心なんだろうなと考えながら冷蔵庫を開け、冷えたスポーツドリンクを飲み干した。
微かに振動音がする。
ソファに置いていたスマートフォンを確認すると、みわのお祖母さんからの着信だった。
「モシモシ、黄瀬です」
「黄瀬さん? 今日はありがとう。ちょっと今いいかしら……」
「ハイ、大丈夫っス」
声を潜めているような気配があり、思わず眉根を寄せた。
「私……無神経に、以前みわが使っていた客間を使うように言ってしまって。
そうしたら突然叫んで暴れ出して。きっと、ここに住んでいた時の事を思い出してしまったのだと思うの」
叫んで……
暴れ出して……!?
「だ、大丈夫なんスか、オレ今から行きましょうか」
「今はね、落ち着いてお布団に入ってるから大丈夫。今まで、こんな事があったらどうしていたのか教えて貰えないかしら」
みわ……。
「多少取り乱したり、とかはあったんスけど、基本的に、錯乱中はそっとしておいて、落ち着いたら……抱きしめてあげるようにしてるんス……あとは、ひとりにしないように、一緒に……寝ていました」
真剣な話ではあるが、やはり彼女の近親者に話すのは気が引ける。
結局、オレと一緒にいる時は和らいでいた症状も、根本的には何も改善していないという事なのだ。
また、自分の無力さに腹が立った。
「明後日朝、みわを迎えに行ってもいいっスか? ……はい、はい、分かりました。
……オヤスミナサイ」