第47章 距離
「いただきます!」
大好きな、おばあちゃんのかぼちゃの煮物。
甘くてほっこりする。
だしのきいたおみそ汁。
「私も若い頃、おじいさんと街角でキスしたわあ」
「ぶっ!」
思わずおみそ汁を吹き出しそうになる。
「みわ、下品よ」
「ご……ごめんなさい……」
「黄瀬さん、素敵よねえ。スラッとして顔が小さくて俳優さんみたい」
思わず目を惹く、黄瀬くんの魅力。
人柄は温かく、わざと冷たくしているような節もあるけれど、本当に優しいひとだ。
彼に惹かれないひとなんているんだろうか。
「黄瀬くん、凄くモテるんだよ」
「そうだろうねえ。大事にしなさいね。ご縁なんだから」
「はい……」
いつものあたたかいおばあちゃんのご飯を全部美味しく頂いて。
食事が終わり、シャワーのみの入浴も済ませると、居間に来るように言われた。
「みわ、体調について聞かせてくれる? 背中の傷はどう?」
「あ……うん、日常生活にはそれほど負担がないけど、制限はかなりされるから完治まではまだ不便かな」
「痛い?」
「……少しだけ痛い、けど平気」
「寝る時に睡眠薬はまだ使っているの?」
「……ううん、最近は使ってない。春くらいまでは……使ってた」
おばあちゃんは、何でも知っている。
ここで暮らしている間の、私が少し……壊れていた時のこととか。
ここに来た当時は、何をしても眠れなくて睡眠薬を使って無理矢理睡眠をとっていた。
「髪の毛はどう? この辺り」
おばあちゃんは、耳の後ろあたりをさすって言った。
「うん、生えてきて……他よりは短いけど、分からないくらいになってる」
当時後頭部は、ストレスで円形脱毛症……大きな禿げができてしまっていた。
髪に隠れていたから分かりづらいのが救いだったけど。
「……お尻は……」
「……もう、普通。大丈夫」
……当時は、トイレに行くのも辛かった。
「今、他には症状がある?」
「……ううん……夢に見るくらい、かな」
「そう……」
「おばあちゃん、心配かけてごめんなさい」
おばあちゃんは優しく微笑んで何も言わずに首を振ってくれた。
「今日はもう、寝なさい」
「うん、少し本読んで勉強してから寝るね。おやすみなさい」
私は、以前生活していた客間へと向かった。