第46章 自宅
「ねえ……黄瀬くん」
突然キスをしてきたみわに、完全に翻弄されてしまっている。
「な、なんスか?」
「……キスって、きもちいいんだね。知らなかった……」
上目遣いで照れたように微笑むみわ。
その濡れた瞳……わざとオレに試練を与えてるんスか?
「……みわ……アンタ……もー、勘弁して」
心臓が、心臓がウルサイ。
「あ、出てけって話だったよね、ごめんなさい!」
やっと、やっとこの地獄から解放される。
……いや、天然なみわのことだ。
もしかして記憶が戻るまでこの繰り返し?
ばたばたとみわが部屋から出て行く。
今ここで感じていた彼女の唇の感触とベッドから覗かせた裸体の記憶で、少し扱くとあっという間に出た。
……どんどん妄想オナニー上手になるんスけど……。
自己嫌悪に陥りながら、手早く処理を済ませる。
部屋を出て手を洗う為に洗面所へ行き、戻ってくるとみわの姿がないことに気づいた。
みわの部屋っスかね?
コンコン、とみわの部屋をノックすると、少し間を空けて、そろりと出てきた。
「あっ、お、終わった……?」
「あ、あー……オカゲサマで……」
なんだこの会話。
「今、おばあちゃんに連絡取ったの。荷物持たせてごめんね」
「いいっスよ。お祖母さんちって遠いんじゃないスか?」
「ううん、ここから2駅だから、近いよ」
「そうなんスか。ひとり暮らししてたぐらいだから遠くなのかと思った」
「ひとり暮らしは……おばあちゃんに一生面倒見て貰う訳にはいかないからって、社会勉強みたいな感じで……」
「そうだったんスね」
なんだか意外だった。
金銭的に余裕はあるんだろうか。
体調の事も考えて帰りもタクシーの方がいいと提案したが、みわは電車で帰るときかなかった。
「……寒くなってきたね」
「そうっスね〜。体育館が冷える季節」
「怪我には気を付けないとね。怪我人が言っても説得力ないけど」
「いや……気をつけるっス」
肌に当たる風が身体を冷やす。
みわの腰を引き寄せて、包むようにして歩く。
「……どうしたの?」
「ん? 冷えるかなって」
「あ、ありがとう」
見下ろした彼女の耳が赤くなっている。
可愛いな。