第46章 自宅
「……体調悪い? 私、ひとりで帰れるよ」
おでこに手を当てたが、熱はないよう。
でも明らかに様子がおかしい。
「あー、ごめん……大丈夫っス。恥ずいな……なんだこれ。抜いたらすぐ行くから待っててくれる?」
相変わらず枕と仲良ししている彼。
合間からこちらを見る目が熱っぽくて、色っぽい。
……抜く?
「何を? 手伝おうか?」
「な、何をって……その質問、マジっスか……」
黄瀬くんは明らかに動揺している。
どうしたのだろう。
「何か急がなきゃならないなら手伝うよ」
「いやいや違う、追い抜く訳じゃねーんス。オナニーして、出すだけ」
「おっ……!?」
自分の顔が音を立てて赤くなるのがわかる。
自慰、ってこと、だよね……?
「そ、そんな……どうして?」
「みわが興奮させるからっしょ……ゴメン、このままでいるのは、無理」
そう言って頭をわしゃわしゃとする姿が……可愛らしい。
なんだかとても……愛しい。
なんだろう、この……この気持ち……。
気付くと私から……唇を重ねていた。
「ちょッ!?」
「あ、ご、ごめんなさい、つい……」
つい、じゃないよ。
私、何やってるの。
なんで、なんで……自分を止められない。
離れた唇を、もう一度押し付けた。
見たこと無いくらい慌てる黄瀬くん。
でも、私の唇を受け入れてくれた。
やり方なんて分からないから、唇を重ねるだけの子どもみたいなキス。
今だけ、このひとは私のもの。
少し落ち着いていた彼の瞳には、今までにないくらい興奮の兆しがあった。
見たい。
黄瀬くんの……見たこと無い、顔を。
なに、このきもち。
「ねえ、ほんとに記憶戻ってないんスよね?」
「うん……何か変?」
「オレと付き合ってたの、覚えてないんスよね?」
「うん……でも……わからなくなってきた。なんか……わかんない、わかんないのに、わかる……自分の、気持ちも……ああ、私ちょっと混乱してるかも……」
「はは、ちょっとどころじゃないっスね」
「ごめんなさい……変な事して」
「オレ、みわに負担かけないように距離置こうとしてたのに。いや、別れるとかそこまでは考えてなかったっスけど……」
「うん……」
「……無理っスわ……こんなに……好きなのに……」
また、唇が触れた。