第46章 自宅
「今日はもう帰った方がいいっスかね……。みわのことだから、明後日学校行くとか言うんスよね?」
「うん、行くよもちろん」
……やっぱり。
こんな所は相変わらずだ。
「今日も1日家で休んだ方が良かったんじゃないスか」
「動かないと体力戻らないし……でもごめんなさい、黄瀬くん……少しだけ横になってもいい?」
「ん?」
「……ちょっと……疲れちゃって……」
そう言うとコロンと横になったみわはすぐに夢の中へ入ってしまっていた。
「……みわ?」
少し揺するが起きる気配はない。
ずっと寝たきりだったし、慣れない所に来て疲れてしまったんだろう。
先ほど被せたオレのシャツは倒れ込んだ拍子にはだけてしまい、なんともいやらしい格好の彼女。
雑念を振り払うように布団を掛け、自分も横に寝転んだ。
髪は絹糸のようになめらかだ。
いつもそうするように指を通し、鼻先に近づけて香りを嗅いだ。
あの事件……みわが刺されたのはオレのせいだ。
犯人の女は、"オレに会いに来たのに浮気のキスシーンを見せられた"とか、"家まで会いに行ったのに家の中から浮気セックスの喘ぎ声が聞こえたから"などと供述している。
女はオレと恋人同士だと思い込んでいたらしい。
そして、みわが浮気相手だと。
異常だ。
他の女に見せつける行為が大多数には効果的だったようだが、たったひとりでもあのような事件を起こす引き金になってしまい、みわには何と詫びたら良いのか皆目見当もつかない。
何針か縫った傷は、跡が残るかもしれない。
……みわ……。
ごめん……。
あのまま、彼女を失っていたらどうなっていただろうか。
考えたくもない。
背筋に寒いものが走り、ゾッとする。
みわに寄り添い、腕を腰に回した。
細い腰。力を入れたら砕けてしまいそうだ。
布団の隙間からは張りのある乳房が見えている。ここの柔らかさはよく知っている。
変わらぬ妖艶な魅力が迸る肉体に吸い込まれそうになって、自制する。
浅ましい。
自分のせいで傷付いた女を目の前に肉欲に抗う、醜い人間。
キセキだエースだと言われていても、所詮男だ。
でも、今願うことはただひとつ。
みわ、どこにも行かないで……。