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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第46章 自宅


窓を開ければ気持ち良い風が入ってくる。

部屋の中には、カリカリと筆記具の音だけが響く。
私は、つとめて明るく問いかけた。

「……私たち身体の関係って、あった?」

それは、私の中で考えている、ひとつの可能性。

ピタリと音が止まる。数秒の間。
悩んでいるのが空気からも伝わってくる。

「なんで、そんな事聞くんスか? この間も似たような事、聞かれたけど」

「早く思い出せる、きっかけになるかなって……」



しん、と訪れた間。
彼が深く息を吸う気配。




「……あったっスよ」

再びカリカリと筆記具の音。
これ以上は聞くなという意思表示だろうか。

「……そっか……」

……肉体関係。

私はどうやって乗り越えたんだろう。

でも、もし黄瀬くんが私と付き合うなら、きっとそういうメリットがないと有り得ないと思っていたから、納得でもある。

心に重いものが下りてきた。
やはり、身体か。

なんでも出来る、スーパーマンのような彼だって男性だ。当たり前だろう。

肉体関係がなかったら、私なんかとこんな凄いひとが付き合うわけ、ない。

……同じ事をしたら、思い出す?
少しの間、あの痛みに耐えれば思い出せる?

でも、やっぱり忘れたかったんだろうか。
この関係を、終わらせたかったんだろうか。

……ヤツとのことは忘れられてない。

どうせ忘れるなら、嫌な事を全部忘れてしまいたかったのに。

「みわ」

「はいっ」

突然の声に、ひっくり返りそうなほど驚いた。





「……オレたち、ちょっと距離置こう」






「……え?」

「幸いにも今、忘れてるのはオレの事だけだし思い出さなくても、生活に支障はないっスよね? 無理に思い出そうとするの、やめないスか」

「ど、どうして……?」

「記憶を戻そう戻そうとするから、みわ、辛いと思うんス」

「そんなの、大丈夫だよ、私」



「……オレも、つらい」


……そう言う黄瀬くんの表情は暗かった。
忘れられた側の気持ちは、私には分からない。

「って言われても、みわはそもそも付き合ってたこと憶えてないんだから、何言ってんだって感じだと思うんスけどね」

自嘲気味にそう言い捨てて、またノートに向かう。

恋人だという彼にこんな事を言わせてしまう自分が情けない。


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