第45章 欠落
「みわ、明日退院できるかもしれないんスか?」
今日は練習がないからと、黄瀬くんは早い時間から病院に来てくれた。
「うん、今日1日特に問題なければ明日退院だって」
「……良かった……」
黄瀬くんは本当に安心した顔で、はあと息をついた。
「みわ、オレまだちゃんと言えてなかった。……ありがとう」
それはまさかの、お礼の言葉。
「……何が?」
「……オレの代わりに……こんな思いする事になって……」
……やっぱりあきの言っていたことは本当みたい。
「ううん……それは、いいの……私こそ……思い出せなくて……ごめんなさい」
「仕方ないっスよ、それは。……オレさ、今日ここで勉強」
「あの、黄瀬くん」
黄瀬くんが鞄から勉強道具を取り出そうとしているのを遮った。
「何スか?」
「あの、私たちが一緒に行ったところ、どこでもいいんだけれど、明日……連れてってくれないかな。何か思い出すかもしれないし……」
「モチロンそれはいいんスけど、まだ外出は無理しないで、もう少し体力とか身体が戻ってからの方が良くない?」
「あ、そう、だよね……テスト前だしね」
私また、自分の事しか考えてない。
これ以上彼の足を引っ張ってどうするの。
「一緒に家で勉強する?」
「え? 家って、黄瀬くんの?」
家で、……勉強?
「あー、うん、オレのっていうか……うん、まあ、そんなとこ」
「?」
そんなとこ、とはどういう意味なんだろう。
「いや、嫌なら他で……」
黄瀬くんが何か悪だくみをしようとしているようには見えない。
「黄瀬くんの家でふたりで過ごす時間って、そんなに多かった?」
「……うん、多かったっスよ」
そうなんだ……家にノコノコとひとりでついていって、大丈夫なのかな……。
もし危なかったら、逃げてこれるかな。
でも、おばあちゃんは黄瀬くんのこと、信頼できるひとだって。
あきも、黄瀬くんのことを信用している口ぶりだった。
私も、私なりにふたりの関係を考えたりしてる。
……怖いのは確かだけど、行った方がいいような気がする……。
多分、私たちの関係って……