第45章 欠落
……聞いたんだけど、本人に。
なんかうまくはぐらかされたというか……
「みわ、入るよ」
「あ、おばあちゃん」
「先生からお話があってね、明日の様子を見て、早くて明後日には退院できるそうだよ」
「ほんと? やった!」
久しぶりに動ける!
学校に行ける! バスケ見れる!
「あとは、起きた時の吐き気がおさまらないようなら、一度心療内科にって言われたんだけど……どうする?」
心療内科。
……。
「ううん……行かなくて、大丈夫」
「……そう。分かったわ」
「ごめんね。おばあちゃん」
「いいんだよ。みわの気持ちが大事だから。黄瀬さんとのことは、思い出せそう?」
「……全く思い出せないの。ドッキリとかじゃ、ないよね? だってあんなに人気がある人と……」
「手術室の前でみわを待ってたあの姿は、冗談とかいい加減とか、決してそういう気持ちではないだろうと断言できるよ」
「……そう……」
「みわ、今は少し疲れてしまっているのよ。今はゆっくり休んで、ゆっくり思い出せばいいじゃないの」
「うん……そうだね」
皆はそう言ってくれるけど、やっぱりそうはいかない。
自分ひとりのことならいい。
自分で解決できなくても困るのは自分だけだから。
でも、今回の場合はそうじゃない。
相手がいるんだ。
早くなんとかしなければ、と気が急く。
何か、何かきっかけになるようなことは。
一緒に行った場所に行くというのはどうだろう。
でも、そうなると黄瀬くんとふたりで出かける必要があるよね。
男の人は怖い。
ニコニコとなんでもない顔をして寄ってきて、こちらが驚く程の力で全てを奪っていく。
私の事なんて御構い無しに、相手の思うまま蹂躙されるだけだ。
それが、どうしようもなく怖い。
アイツだって、最初はニコニコと雰囲気のいいおじさんという感じで近寄ってきた。
お母さんの恋人だという人間に、疑いの目など持つわけがなかった。
自分が信用している人間ほど、裏切られた時のショックと恐怖が桁外れになる。
人間を信用すること自体、出来なくなっている私。
黄瀬くんと付き合えてたということは、前進できていたということ?
「黄瀬さんは、信頼できる人だよ」
おばあちゃんは、真剣だ。
「……ありがとう」