第45章 欠落
「いやー災難だったね〜、黄瀬のファンに刺されたんだって? 心配したんだから」
「ごめんね、心配かけて」
あきには珍しく、目の下のクマが凄い。
いつもの調子で話してくれてるけど、心配かけてたのがよく分かる。
「ばあか」
ぎゅっと抱きしめてくれるその体温が心地いい。
ありがとう。あき。
「もー黄瀬がみるみるうちに弱ってくから気の毒でさ。治ったら仲良くしてやんなよ」
……さっきの黄瀬くんを思い出す。
「……それが……」
私は、今の状態をあきに説明した。
「そ、そりゃまた器用に忘れてんのね」
「……私……黄瀬くんとうまくいってなかったのかなあ……?」
「は? なんで?」
「だって……黄瀬くんとの関係だけ忘れるって、ちょっと普通じゃないよね……?」
「うーん、喧嘩したりもあったけど……あんたが命がけで守ろうとしたくらいには黄瀬のこと、大事にしてたと思うけど」
命がけ? 守ろうと?
あき、何言ってるの?
「……何言ってんのって顔してるけど」
「え、あ、うん。私、どういう状況で刺されたのかって覚えていなくて……なんか、逆恨み的なのかと」
「いや、あたしが聞いたのは、あんたが黄瀬を庇って刺されたって。それも覚えてないって、あんたやっぱりどっか悪いんじゃないの?」
「検査では異常なし、だって」
庇ったって、私が……?
「うーん、精神的なものなのかな? ま、焦らずいきなよ、まだそんなに日も経ってないんだし」
「……うん」
「でも、黄瀬にかける言葉にはちょっと気遣ってやってよね。忘れられた方はかなりのショックだと思うの」
「うん、分かった……ありがとう」
黄瀬くんが元気ないのも、私のせいだって……分かってる。
あの表情……。
でも、どうしたらいいんだろう。
誰か、教えて……
「……あき、私……黄瀬くんとどこまでいってたか知ってる?」
「……え」
「知らないよね、普通他人の恋愛事情なんて。ごめん、気にしないで」
「……あー……えーっと……そ、そうね、黄瀬に聞いたらいいんじゃないのかな、ほら、ね、ふたりのことだし、ね」
「ふふ、なあに? あきがそんなに慌てるの、珍しい」
「ま、また来るよ! お大事にね!」
……変なあき。