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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第45章 欠落


思い出せない。
覚えている事だってあるのに。

例えば私が刺された日。
その日に受けた授業の内容や部活の練習内容はハッキリ覚えてる。

なのに、朝どうやって登校したのかがどう頑張っても思い出せない。

刺される直前の事も、覚えてない。
先生は、ショックでそういう事もあるって言ってたけど……。

もしかして、この靄がかかって思い出せない部分が、黄瀬くんとの思い出?

私、どうしてピンポイントで忘れてしまっているの?

そんなに、忘れたかったの……?

今日も黄瀬くんは学校帰りにお見舞いに寄ってくれた。

なんだか少し、元気がない。
顔色も良くない。

「黄瀬くん、疲れてるなら本当に無理せず帰って。テスト、近いんだし」

「……今日はさ、みわに勉強教えて貰おうかなって思ったんス」

「それはいいんだけど……ちゃんと、寝てる?」

「大丈夫っスよ」

なんとなく、気まずい。

黄瀬くんは全部覚えていて、私は全く覚えていないって……

黄瀬くんは今、どんな気持ち?

「みわ、ここなんスけど」

「……えっ?!」

考え事をしていて、驚いて顔を上げた瞬間、教科書に手が当たってベッドの下に落ちた。

「あ、ごめんなさい!」

焦って拾おうとする。
手が届きそうで……とどか……

「みわいいよ、オレ取るから」

「痛っ……」

突然背中に激痛が走り、バランスを崩した。

「みわ!」

「……いた……」

「無理して動いちゃダメっスよ! 傷口が開いたかも。ナースコール」

「大丈夫、もうすぐ検温の時間だか……」

はっと気付くと、黄瀬くんの胸の中だった。
ベッドから落ちないよう、支えてくれていた。

「きゃあ!」

それなのに私は、咄嗟に振り払った。
反射的に。無意識に。
私の上半身を包み込んでいる大きな身体が怖くて。

「……ごめん」

黄瀬くんが私の身体を起こし、パッと手を離した。

「ううん、ごめんなさい。これなら自分で取れると思っちゃって……」

指先が震える。
肌が触れた部分が熱い。

「オレ、もう帰った方がいいっスね。また来るね」

「あ、私……」

黄瀬くんは目も合わせずに病室を出て行ってしまった。

入れ替わるようにして知っている顔が覗く。

「みわ、どう?」

「……あき!」

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