第45章 欠落
病院からの帰り道。
オレは、やり場のない気持ちを抱えていた。
携帯が着信を知らせる。
見ると、全く思い出せない女の名前。
『もしもし涼君? 元気してたあ?』
誰っスか、アンタ。
「……あーうん、まあ」
『えーやだ元気ないじゃん! 元気ないならさ、涼君、エッチしよう?』
昔関係があった女か。
顔すら全く思い出せないが。
「慰めてくれんの?」
自棄だった。
制服ではさすがにまずいからと、着替えて待ち合わせ場所に着くと、派手な化粧の女が嬉しそうに手を振っていた。
顔を見ても殆ど思い出せなかったが、多分モデルなんだと思う。
オレが以前セックスしたことのある女はモデルだけだ。
まあ、それもどうでもいい。
「涼君、久しぶりだね。なんか疲れてる? いっぱい癒してあげるからね!」
女はそう言って、早速ラブホテルへと入り、きゃあきゃあ言いながら部屋を選び、嬉しそうに部屋へ入った。
「涼君……キス、して?」
グロスでヌラヌラと光った唇をこちらに向け、キスをねだる女。
「いいだろそんなの」
とても唇を重ねる気にはならず押し退けた。
「やーん、ちょっとクールな涼君もいい! ……今日は強引に、してもいいよ?」
女は自ら全裸になり、オレのシャツにも手をかけた。
「わあ涼君、筋肉ついたねえ! ますますカッコいい!」
オレは女の胸を揉み、秘部に手を伸ばす。
「やあん! ……立ったままじゃいや……ベッド、行こう?」
………
違う。
「……違う」
「涼君、どうしたの?」
オレが踵を返して出口に向かおうとすると女が駆け寄り、背後から抱きつかれる。
手はオレの股間をまさぐっていた。
「……涼君、何か嫌な事があったんでしょ? 聞くよ? アタシ……」
「ごめん。自棄になってた。オレ、彼女いるから」
「だから何? アタシだってカレシいるよ? その彼女とうまくいってないんでしょ? ……今だけは、忘れようよ」
忘れる。
みわ……どうして……
考えたくない。
"忘れよう"この言葉が引き金になって、オレは無言でベッドに裸の女を組み敷いた。
「ふふ、涼君……硬くなってきた。アタシを彼女だと思って抱いて、朝までメチャクチャにしていいよ? いっぱい中に出していいから……慰めてあげる」