第45章 欠落
「私は、黄瀬くんのこと何て呼んでたの?」
「学校では黄瀬くん。ふたりきりの時には……涼太って呼んでくれたっス」
「涼太……」
私が、黄瀬くんと付き合ってた……?
ふたりきりの時って……。
私、怖くなかったのかな。
だって……
今こうして個室の病室で黄瀬くんとふたりで座っているのも、正直……心臓が、ドキドキする。
体育館や部活中とかならまだしも、そうでない時にこんなに男性の近くでふたりきりで話したことなんて……
なんで思いだせないの。
黄瀬くんが嘘ついてるんじゃ……ないよね。
彼は、そんなひとじゃない。
それは、私も知ってるはず。
どうして。
思い出そうとすると、頭がひどく痛む。
「……ごめん、長居した。目が醒めたばかりなのに、辛いっスよね」
黄瀬くんは帰り支度を始めた。
帰っちゃう、んだ……。
なんだろう……すごく、残念な気持ち。
行かないで、欲しいような……。
私の様子がおかしいことに気が付いたのだろう、彼は心配そうに私を見ている。
「みわ?」
「……も、もう帰っちゃうの?」
黄瀬くんが優しく微笑んだ。
こころがぽかぽかするような、笑顔だ。
「ずっと起きてると疲れるっスよね? 無理は良くないスよ」
「……じゃあ、眠るから……寝付くまで、側にいてくれる……?」
自分の口から、思ってもみない言葉が、出た。
何故か、彼と離れたくない気持ちが勝って。
「いいっスよ。おやすみ」
優しい声。
髪に手が触れて、驚いて身を竦ませた。
「あ、ごめん、つい」
「……ううん、ちょっと驚いただけ。ごめんなさい」
触れた手に不快感はなかった。
髪の毛触られるの、なんとなく気持ち良かった。
付き合ってる時に触ってくれたり、したのかな……。
なんで、付き合ってたなんて重要な事覚えてないんだろう。
……やっぱり少し疲れたみたい。
目を閉じると、直ぐに意識を手放した。