第45章 欠落
「……あ」
みわが口元に手を当てて何かに気付いたような素振りを見せる。
「何か、思い出したっスか?」
「いや、さっきなんとなくおばあちゃんの家に住んでる気がしたんだけど……私、高校に入ってからひとり暮らししてた、よね?」
少しずつ、思い出してきたのか?
「うん、出会った時はひとり暮らししてたっス」
「……出会った時は、って事は……今はしてなかったんだっけ? 最近、どうやって登校してたかが全然思い出せないの……変だよね、こんなの」
「……みわ、ストーカーされてたりした記憶とかは?」
「……え、特にそんな記憶ないけれど……」
ヤツに関する記憶もない。
胸が、痛い。
どうして、あんな大切な時間を忘れてしまったんスか……
いや、元はと言えばオレのせいだ。
みわを責めるのはお門違い。
「……みわ、話しておきたい事があるんスけど」
「うん、なあに?」
そう返すみわの顔は今までと同じだ。
オレとみわのお祖母さんは全てを話すべきか迷っていたが、少しずつ話していこうという事に決めた。
「オレとみわって、付き合ってたんスよ」
数十秒の沈黙があった。
「……え?」
みわの顔は強張っていた。
「……え、いつから?」
「5月、っスね」
「うそ、私と黄瀬くんが?」
「そう」
思っていたよりもキツイ。
忘れられてしまう事がこんなに悲しいなんて。
みわの目が醒める前までは、もし万が一記憶喪失になっていたとしても、またイチから惚れさせるっス! なんて思ったりもしたけれど、とんでもない。
みわの一言一言にココロを抉られる。
「……あ、そ、そう……なんだ……ごめんなさい、私……覚えてなくて……じゃあ……デート、とかしたのかな……?」
デートだけじゃないっスよ。
色々な事件があって、ふたりで暮らす事になったんじゃないスか。
何度も身体を重ねて。
「うん。あちこち行ったっスね。まあ最近は色々あって……ふたりで家で過ごすことが多かったけど」
この発言に、みわの肩が大きく震えた。
何に反応したんだ?
「……そ、そうなんだ……そっか……」