第45章 欠落
医師は、今までみわの頭の中の大部分を占めていたものが、衝撃で抜け落ちてしまっている可能性があると話した。
大体のものが一過性で、ある日突然記憶が戻ることも少なくないという。
また、それとは別に看護師からの話では、寝て起きると必ず嘔吐してしまうという症状が出てしまっているらしい。
頭を打った衝撃なのかは分からないが、大事をとって通常よりも長めの入院期間を取るかもしれないと。
予定ならあと数日で退院だ。
彼女は週明けのテストも受ける気満々である。
病室に入り、お祖母さんが入院が延びる旨を説明すると、残念そうな表情を浮かべた。
「でも……吐いちゃうのは……あんまり良くない夢、見てるだけだから……多分。こうなる前からだから、頭とか、関係ないと思うの」
……ヤツとの事を夢に見ているという事か。
ちらりとオレの方を気にする。
オレは、みわの過去は知らない事になっているんだろう。
なんとか納得してもらい、お祖母さんは先に帰宅してしまったため少しふたりで話す時間ができた。
「……神崎っち、の方がいい?」
「ううん、黄瀬くんが呼びやすい方で大丈夫」
「じゃあ、みわって呼ばせて」
これ以上オレたちの距離を遠くしたくない。
「……うん、分かった、いいよ……」
「みわは、黒子っちと一緒に、オレんちにお見舞いに来てくれたの、覚えてる?」
「うん、4月だったよね。行った……」
「どうやって帰ったか覚えてる?」
「え……? ……黒子くんが帰るって言って、一緒に帰ったんだっけ……? あれ……思い出せない……」
オレと一緒に寝たっスよね?
優しく看病もしてくれて。
次の日、姉ちゃんに車で送って貰ったじゃないスか。
「旧図書室で話したことは?」
「ああ、私が昼休みに寝てる時、来てくれたことがあったよね。……うーん、なんか特別な事話したんだっけ……?」
そこで、オレと付き合う事になったんスよ。
「体育館でフォーメーションについて教えて欲しいって言ってくれた事もあったっスよね」
「……うん、あった、あったよ。あんまりハッキリ覚えてないけど……」
オレが、みわにキスした時。
……本当に、オレとの恋愛に関わるところだけぼやけているというか、忘れてる。