第44章 急転
翌日、黄瀬はいつも通り朝のロードワークをこなし、登校していた。
心配していたバスケ部の2、3年生も、校門の向こうに黄瀬の姿を見てホッとした。
しかし、黄瀬の足は校門の前で一度止まる。
そこは、事件のあった場所だった。
みわが凶刃に倒れた場所。
そこでたっぷり数十分もの時間を要し、再び足が動いたのはHRが始まる予鈴が鳴り響いた時だった。
授業が始まると、黄瀬は真面目に勉強した。
近づくテストに向けて集中しているわけでも、成績を上げるために気合いを入れているわけでもなかった。
みわが入院中、自分の書いたノートで少しでも勉強が出来ればと考えたのだ。
しかしそれも口実で、部活動が禁止されている今、何かに集中していないと、黄瀬の精神は保たなかったのだと思われた。
少しの隙間を縫って襲い来る罪悪感。
オレさえいなければ、あんな目に遭う事はなかったんだ。
どうしてオレが守ってやれなかったんだ。
その思いが黄瀬を苛んでいた。
放課後に部活動がない今、まっすぐ病院へ向かおうとすると、携帯電話が着信を知らせた。
先日連絡先を交換したみわの祖母だ。
良い報せか、悪い報せか。
逡巡したが、頭をひとつ振って通話ボタンを押した。
良い報せだった。
みわの目が醒めたのだ。
黄瀬はなりふり構わず走った。
院内は流石に小走りになったが、逸る気持ちが抑えられない。
病室に入ると、みわの祖母とベッドの上で起き上がっているみわの姿が見えた。
「……黄瀬くん」
そう言ってみわは微笑んだ。
医師から記憶障害の話があった際に、これがきっかけで記憶喪失になり、オレのことも忘れてしまっていたらと心配していたが、杞憂だったようだ。
そうそう、ドラマのような事は起こらないということだろうか。
後から監督や笠松も到着し、少し話をしていった。
目が醒めたばかりのみわの負担にならないよう、少しの時間でふたりは帰っていった。
優しく微笑んで祖母と話すみわになんて声を掛けたらいいか、わからない。
伝えたい事が多すぎて、言葉が出ない。