第44章 急転
笠松が冷蔵庫を開けようとすると、側面にゴミの日の予定表が貼ってあるのが目に入った。
この地域は明日がゴミの日のようだ。
帰りにゴミを捨てていってやろうかとゴミ箱を開けると、コンドームの空き袋が多数入っているのが見えてしまった。
見てはいけないものを見てしまったような気になり、笠松は思わず目を逸らした。
使用済みのゴムは、うっかり見えるように処理するような男ではなかった。
少し安心した。
夏合宿前には、まだそんな関係にはなってないと言っていたのに、などとまた関係のない妄想をしてしまう。
可愛い後輩ふたりが交わっている姿を想像してしまい、未だ性経験のない笠松は赤面した。
「……センパイ、オレ、ひとりで大丈夫っス」
そんな時に後ろから突然黄瀬に話しかけられ、文字通り笠松は飛び上がる思いだった。
「ちゃ、ちゃんとメシ、食えんのかよ」
動揺を隠せずどもりながら話す笠松に特に疑問も抱かず、黄瀬は小さく答えた。
「……みわが、作っておいてくれたのがあるんで……」
笠松をさっさと追い返す為の口実かもしれないと冷蔵庫を開けてみると、なるほど大小様々な皿がラップのかかった状態で保存されていた。
ますますふたりが一緒に暮らしていたような空気が漂うが、休養日にまとめて作ったのかもしれないし、何よりプライベートを詮索するような無粋な真似はしたくない。
笠松は、今自分に出来る事はないと判断した。
「……そうか、分かった。邪魔したな」
折れかけている後輩に何をしてやる事もできず、やるせない思いで笠松は玄関へ向かう。
笠松が玄関で靴を履いていると、黄瀬の声が追いかけてきた。
「……センパイ!」
笠松を呼ぶその声がいつもの黄瀬のもので、なんだかとても懐かしいような気がした。
その実、たったの2日ぶりなのだが。
「……明日は、学校行くっス」
どちらにしろ、部活は活動禁止期間中だ。
笠松と顔を合わせる機会もないかもしれない。
それでも、黄瀬のその言葉は嬉しかった。
「……遅刻すんなよ」
笠松はいつも通りの口調になるよう努めた。