第44章 急転
翌日、当然の流れだが黄瀬は学校も部活も休んだ。
眠りもせず、食事も取らず、ずっとみわの側にいた。
このままでは、黄瀬の方が先に参ってしまう。
しかし、昏倒していた昨日とは異なり、通常この病院は付き添い宿泊は認められていない。
なんとかお願いしますという黄瀬の懇願も虚しく、面会終了の時間には、病室から追い出されてしまった。
これで流石に黄瀬も家に帰るだろうと笠松は安心したものだが、黄瀬は家に帰らず、病院の庭のベンチに座っていた。
「……みわが目を覚ましたら……すぐに、会いに行けるように」
と言った黄瀬の目には既に光が無かった。
疲弊しきっている。
それでも美しいのが黄瀬涼太という男の凄さのひとつなのかもしれない。
それを見かねたみわの祖母が黄瀬に厳しい言葉をかけた。
「黄瀬さんが、みわを大切に想ってくれているのはよく分かったわ。でも、今そこでそうしているのが、本当にあの子が喜ぶ事なのかしら」
そう言われて、黄瀬はハッとする。
みわと最後に言葉を交わした際、見舞いには来るな、勉強もバスケもちゃんとして、ウインターカップで勝って来いと言われたのだ。
勿論全てを許容するわけにはいかない。
見舞いには行くが、こんな風に全てを投げ出してここにいるのは、みわが最も嫌がる事だと気付いた。
「オレ……かえる……っス」
ふらふらと覚束ない足元で帰路に着く黄瀬を笠松は暫く見つめていたが、心配になり家まで送る事にした。
彼だって簡単な料理くらいはできる。
ごくごく簡単な、ではあるが。
黄瀬は特に何も言わなかった。
帰れともありがとうとも。
感情が麻痺してしまっていた。
黄瀬が家の玄関を開けると、嗅ぎ慣れたみわの香りがした。
彼女も住んでいる家なのだから至極当たり前なのだが、ひどく懐かしく感じ黄瀬はまた、涙を流していた。
笠松が夕食を作るからとあちこちを触っていると、驚く事に、家の中の物はひとり暮らしとは思えないものばかりだった。
もしかして、ふたりで暮らしていたのか?
笠松は、事実を知らない。
家にある物は全てふたり分、揃っている。
まあ、しょっちゅうみわが来ることを見込んで揃えてあるだけかもしれない。