第44章 急転
数時間後、黄瀬が目を覚ました時に笠松がそこにはいた。
あんなにも我を忘れる黄瀬は初めてで、放って帰ることなど出来なかったのだ。
今日は一先ず家に帰り、また明日見舞いに来いと言っても黄瀬は承諾せず、またみわに寄り添い、死人のような白い手を握り続けていた。
諦めた笠松は家に帰る事に決めた。
ここで無理をして共倒れでは意味がない。
どの部員も、今日の事件が鮮明に脳裏に焼きつき、眠れない思いをしていたことを知るのは、まだ先の話。
廊下に出ると、既に帰宅したと思っていた小堀がいた。
「……小堀、どうしたんだ? 待っててくれたのか?」
そう問うと、小堀は少しバツの悪そうな顔をしてポツリと呟いた。
「……いや、神崎が心配で」
意外だった。
いや、この表現は正しくないのかもしれない。
普段、あまり感情を表に出さない穏やかな男の意外な一面を見た気分だった。
「なら、中に入ったらどうだ。俺は一旦帰るぞ」
それだけ言って笠松はその場を去ったが、小堀の足は動かなかった。
自分の気持ちを黄瀬に伝えていなければ、何食わぬ顔で見舞えたのだと思う。
しかし、黄瀬は小堀の気持ちを知っている。
また、神崎をこんな目に遭わせた黄瀬に、少なからず怒りの感情を持っていた。
結局、たっぷり1時間悩んだのちに、小堀は帰路に着いた。
病室には入れなかった。